2017年10月 1日 (日)

Jaeger LeCoultre Tribute To Geophysic 1958

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この時計についてまだ書いてなかったことにようやく気が付いた。True SecondおよびUniversal TimeGeophysicラインとして登場した時に少し文句を書いたので、もう済んだ気になっていたのかも。

 

さて何とも微妙なこの時計、どこから書くべきか悩むがまずはその出自から。Tribute ToとはもちろんオリジナルジオフィジックRef.E168のトリビュートであり、近年出色の復刻時計を多く世に出してきたJLCによる、TT Reversoなどと同様オリジナルよりもややケースサイズを拡大しての復刻版である。ポラリス系などはオリジナルもそれなりのサイズだったので、サイズその他の見直しなども殆ど無く、ほぼオリジナルに忠実な復刻であったものだが、レベルソの復刻などは軒並みサイズアップが図られている。これは現代で使う現代の時計としてどうか、という視点でサイズが見直されているものと捉えている。

 

しかるに、35mm径であったオリジナルは、現在ではいささか小さいとの判断がなされた模様であり38.5mmとなっている。今年話題となったグランドセイコーファーストは、オリジナル35mmに対し復刻38mmと、ほぼこの辺りがトレンドと言えよう。

この復刻にあったってマニア間で一番物議をかもしたのが、これが自動巻きであることだろう。それではGeomaticではないかという意見も尤もである。Geophysicは手巻きとしか考えられず、私もそこは疑問であったが、JLCが現在生産できる手巻きの機械は角形の822と、さらに小さい846等しかなく、自動巻きになったのは背に腹は代えられない、という理由だけだと思う。最近では976というAutotoractor(既に懐かしい響きもする)の975系から自動巻き機構を取っ払った手巻き機械が、グランドレベルソに載った例もあったのだが、おそらくこれはスモセコ輪列なので採用されなかっただけだろう。出車にする労力すらかけてもらえなかったのか。それも少し寂しい気がする。

 

希望を言えば、古の449/450系のような手巻きの機械を新規に起こすのが最善手と思われるが、残念ながらそのような手立てはとられず、きわめてイージーに899系の最新機械である898を搭載している。まあ見目醜悪な976等の機械よりは良かったのかもしれないが、これは判断に迷うところだ。出車にすればアピアランスもだいぶ変わったかもしれないが。

 

積まれている8981970年代には存在していたCal.900から改良を加えられてきた機械であり、889/2899に替わった際に、フリースプラング化および自動巻きの片巻化がなされている。889系は高級機、975系は質実剛健、というのが975が出てきた時のなんとなくの棲み分けだったと思うが、後者は特に最近なんとなく見捨てられている感じがする。975系が世に出て15年程度経った今となっては、当時の設計上の結論として、”フリスプ化は良い”ということと”自動巻きはスイッチングロッカーよりも片方向が高効率(セラミックボールベアリングを得たことも関係)”ということが言えていたと思う。この波がほどなくして889系にも及び899となったとき、JLCの高級化志向と相まって、まるでロレックスの3130系のような分厚く質実剛健である975系は、時代のあだ花となってしまったのではなかろうか。

 

なんか機械に関する事実と類推だけで長くなってしまった。出自から書くつもりだったのでいったん方向修正する。

トリビュート花盛りなJLC界隈であったが、ポラリスをやりだしたころにJLCは、今となっては黒歴史的である特別なマスコンEtxreme L.A.B.Geophysicの名を冠した時計を作り、それを装着した探検隊を北極に向かわせたり、E168Geophysicの公開オークションをやったりと、なんとなくE168を復刻させる機運は高まっていたと思う。やがてそれは本当になる。2014年初頭のSIHHにおいて、選ばれた有力リテーラーにのみ、これを復刻させる情報を流したりしつつ、そのようなリテーラーや関係者の反応を見ながらこのプロジェクトが進められていったようだ。そして2014年の11月頃、ようやく市販されたのがこれであった。一番ポピュラーなE168デザインはPtケースが与えられ、いわゆるCross Hairと呼ばれるデザインが、PGSSモデルに与えられた。文字盤に”Chronometer”は謳えず、代わりにE168には表記されなかったペットネームがついに12時位置下に与えられた。そしてオリジナルよりわずかに生産本数を絞った限定として売り出したおかげで、比較的早い段階で市場からは無くなったと記憶している。同じような機能で899を積む通常のマスターコントロールよりも1.5倍くらい高い値段だったため、この時計を購入したのはほぼ私のようなマニアであろう。私にとってこれをコレクションの一員に迎え入れるのは、義務感に近かったのだ。

 

さてデザインは基本的にE168を復刻したものであるが、オリジナルE1682本所有するものとしては、気になる部分が多いのも事実だ。もちろん見た目は一回りデカいCross HairE168である。パーツで従来のマスターコントロールなどと共通のものは中の機械くらいで、殆どが新造であることが価格増の主な理由であろう。

 

ディテールを見てみる。細かいところから書き始めるが、まず何と言っても見返しの夜光ドット。これこそがE168の大きな特徴だ。ところが実際のE168で夜光ドットが全周12個フルで残っている個体は稀で、おそらくケース洗浄などの際に剥がれ落ちてしまっているものが大半である。復刻できっちりと再現されているのは当然だが嬉しいものだ。

 

針はE168で最も多いダガーと良く言われるイプを再現している。形状はほぼオリジナルに近く、また得意の経年により若干変色した夜光で雰囲気を出している。セコンドハンドもほぼこんな感じだ。

またこれも細かい部分であるが、竜頭は相当いい感じで再現されている。何の刻印も無いのだが、オリジナルの形状に極めてバランスが近く、ここは拘りを感じる部分だ。

 

ダイヤルの雰囲気、特にマットな白塗装は、Duometreあたりから採用し続けているざらついたものが更にこなれてきた感じで、このE168的な雰囲気が再現できるようになったことも、今回の復刻に繋がったのではないかと考えている。デザインについての意見は有ろうが、まあ悪くない。できればJLのマークは要らないと思うけど、”CHRONOMETRE”と書けない今、”GEOPHYSIC”で埋めるのは納得感がある。また初期案では6時側に”AUTOMATIC”とも書いてあったようであるが、流石に評判悪かったのか製品版に改められた。(現に自動巻きが入っているものの)AUTOMATIC標記のあるGEOPHYSICなど考えられず、これは正しい方向である。

 

特徴的な非常に細長いインデックス。これも雰囲気良く再現されているが、文字盤での不満は十分なボンベ形状となっていない点である。オリジナルE168は、ボンベ形状の軟鉄製文字盤と、同じく軟鉄製のシールドで機械をスッポリと包み込むような構造で耐磁性能を発揮している。しかしここは十分に再現されているとは言い難い。もう一つの難点はサファイヤ風防の形状で、オリジナルは文字盤同様ポッコリとしているが、復刻はいささかフラット気味である。結果として文字盤、風防が醸し出す雰囲気はかなり現代的であり、あえてそうしたのかはわからないが個人的にはもう少し古典に倣ってほしかったと思う。

 

さてそれらを包み込むケースであるが、特にラグの雰囲気がオリジナルと異なる感じがする。オリジナルはもっと直方体っぽい形状であるのに対し、復刻は現代的、かつ今の目で見てバランスの良い、先端がより細く垂れ下っている形状である。ケース全体は今の技術で作られているため面も稜線もかっちりとしており、クオリティは高い。またケースバックには伝説的なGlobeが彫り込まれており、完全にプレーンなオリジナルとは大きく異なるが、このGlobeE168の時にデザインされたものなのでこれは気に入っている。当然スクリューバックである。

 

今回のSSの生産数は800本とのことであり、そのような文言が彫られているものの、シリアルナンバーは無い。これは800本の価値はどの個体も等しく、シリアルナンバーによる価値の違いを生じさせないためのものだと聞いた。これに関して特に拘りはない。フーンという感じである。

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新造されたバックルは出色の出来。ただし時計本体が大きくなったおかげで、バックルのサイズは18mmである。18-16mmとまでは言わないがせめて19-16mm、ケースサイズも37mm程度であればグッと”Geophysic感”が出たと思うが、そこは少し残念なところである。

とはいえノンデイトの耐磁三針という時計は、JLCの現行丸型ではおそらくこの時計しかない。複数の時計を使い分けるマニアにとって、デイトが無いというのは楽だし、耐磁性能を持つ防水時計なので、結局これは非常に使い勝手の良い時計である。しかしデイト無し耐磁防水というごく当たり前の時計が、なかなか今の市場で見受けられないのはどういうことだ。

そういったことで非常に使い易い時計のはずだが、限定であるということが少しだけ普段使いを躊躇させるし、いざ使うとき、898の針合わせは相変わらず秒針が針飛びするしでトータルで見るとそんなに稼働していないのが実情である。

 

今回Cross Hairデザインの復刻を入手したため、Geophysicの名を持つ時計は3本となった。トリオで所有するとコレクションとしてバランスも良いと感じており、結局JLCマニアとしてそれを所有するすることの満足感は高く、今のところ手放す予定はないのである。昨日も終日使っていたが、既に老眼気味の私にも時間は読み取りやすいし精確だし、極めてアンダーステートメントだしで、こだわりのある時計にもかかわらずニッチな線をよく突いた上で上手くまとめている。

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改めて考えてみれば、見やすく正確で耐磁・防水のE168は完全なる”実用時計”であった。そしてこの復刻も使ってみれば、現代の実用時計としてあらゆる面で十二分に完成されていることがわかる。オリジナルと微妙な違いもあるものの、その精神はそれなりに消化しつつ昇華されたものだと結論づけることにしよう。

*写真はインスタにもあげてるヤツを転用しています。よろしければフォローください。

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2017年9月16日 (土)

Royal Oak "5402ST"

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人間が作った工業製品や工芸品の収集を趣味とする場合、それに関わった人たちの想いや、それが生み出された時代の背景、それが世に出るまでの歴史や伝統、発明や革新、その他あらゆることについて調べ、周辺知識を習得し、さらに推理や想像力を働かせることによって様々なことが結びつき、体系的な知識となっていく。その結果、趣味はより深みを増して楽しいものとなり、さらに深淵に嵌っていく。だからこそ、単に収集するだけのようにみえる”時計”は、趣味として成り立つ。

どんな時計でもこのような楽しみはある。なかでもこのオリジナルジャンボほどこのような楽しみを引き出す懐が広い時計は、めったに無いと思う。

 

前置きはさておき、早速ゴタクを並べることにする。

まずJLCでは920と番号がつけられた、筆舌に尽くしがたいこの機械について。私はTZの古いアーカイヴであるWald Odets氏のこれ

http://www.timezone.com/2002/10/03/the-most-exclusive-automatic-the-vacheron-caliber-1120/

をもう15年くらい前に見て、とにかく圧倒されたのを覚えている。

次の課題は、この機械を積むどの時計を入手するかであり、その代表の一つがロイヤルオークジャンボであることは異論無かろう。機械の素晴らしさについてはこの記事が全てを物語っているので私が語っても無意味と判断し、機械的な視点を離れ、ここからはロイヤルオークという時計について論ずる。一方で、特に初代ロイヤルオークに関するアーカイヴはクロノス誌に広田氏による詳細かつ素晴らしい記事があり(32号、37号)、さらにTZのここ

http://www.timezone.com/2002/09/24/making-a-case-for-the-royal-oak-part-1/

や、これまでのアーカイヴをまとめたうえさらに追補してあるmstanga氏による決定版

https://issuu.com/mstanga/stacks/87da5007ac9943428933700e8dcaf400 *

に詳細な記述があるため、私が書くようなことはほとんど残っていないとすら思えるが、あえてこれだけは書きたい。当時のロイヤルオーク5402STの価格は、他の時計から見れば突出していた。3200CHF(mstanga氏のアーカイヴでは3650CHF)である。

TZの記事には、当時のRolexサブが280スイスフラン程度と書いてある。これはちょっと安すぎる気もするが、mstanga氏のアーカイヴによると、当時のイタリアではサブの三倍以上、IWCのインヂュニアと比べれば四倍以上の価格だったとあり、やはりロイヤルオークの価格の異常さがよく分かる。それほど当時のSUS材(まだ304だった)の高精度加工にはコストがかかったということだろう。

SUSとはクロムを10.5%以上含有する鋼のことであり、もし一度でもSUS材をバイトで削ったことがあれば、材料の粘り気と硬さを実感しているはずだ。大量の切削油を供給しても加工部はかなり高温になり構成刃先も出来やすく、加工も工具のメンテナンスも、普通の鋼材あるいは真鍮を切削するよりも神経を使う。こんなことがSUS材の加工におけるコスト増の要因となる。

5402のケースそのものは、粗々の形にバスンと打ち抜いた後に、面とエッジを整えるというごく普通の工程をとっている。エッジやCのとり方を注意深く見ると、マスプロダクト的な均一さと、手作業での加工による手作り感のギリギリの線を感じることが出来る。現物を手に取ってみないとなかなか伝わり難いと思うものの、このギリギリの線が、この時計を工業製品として成立させているし、またそれこそが魅力であると感じる。ケースサイドからラグに至るCの面は、ラグに向けて幅が広くなるデザインであり、人の手でヤスっていると思われる。限られた職人が熟練の手作業を繰り返すことで、製品は品質が安定するものであり、工業製品として成立する。このケースを見てそんな当たり前のことを思うとともに、脳裏には当時の職人の作業風景がイメージされてくる。

タペストリー文字盤は製造当時、実際にエンジンターンドされていたようだ。それにラッカーでブルーグレーに塗られた後に、ロゴのタンポ印刷とインデックス/APロゴの取り付けが行われている。このインデックスと針はバスタブデザインなどと言われているもので、デザインのキモの一つである。WG製の針はとても立体的で良くできている。最早全く光らないが、インデックスも針も、バスタブに満たされているのは夜光である。

さてこの6時位置APロゴのCROmstanga氏によるとCロットの最終シリアルに近い一群は12時位置APで、それ以外は6時位置だそうだ。私の時計はかなり後ろのほうのシリアルであるが6時位置APロゴで、SWISS表記である。後半の、とあるシリアルNo.でAPロゴの位置が明確に切り替わるのか、ある程度混ざっているのかは定かではない。

なお5年ほど前までは、おそらくPuristS創設者のトーマス・マオ氏が書いた投稿が元ネタだと思うが、シリーズ(ロット)は無印が最初で、そのあとA,B,C,Dまであるとされていた。しかしながらその後mstanga氏を中心に研究が進み、5402STAロットから始まったことが正式にわかった。なお無印は5402SA”であり、これと混同したのではないか、と結論付けている。今はネット上で多くの5402のケースバックの写真を見ることができ、私も同意見だ。

さて外装の話に戻る。

デイトの表示窓は、文字盤外周に近く位置し、オリジナルは白地に黒数字の表記である。特に数字の4,7が特徴的なフォントであり、これで簡単にデイトリングがオリジナルかリプレースかが判断できる。なお4100STのフォントも同様であり、最初期型の数字はさらにこれにヒゲのようなわずかな装飾がみられる。

デイトリングと文字盤デイト窓のクリアランスは驚くほど小さく、まるで張り付いているようにも見える。針と文字盤、風防のクリアランスも同様である。ここが間延びしていると決定的にチープに見えるが、ここまで詰めると逆に高級感が著しく増す。こういったディテールがもたらす印象の積み重ねが、その時計の高級感に結びつくのである。高級時計を標榜するのなら、ディテール全てにわたって絶対に手が抜けないのだ。このオリジナルロイヤルオークジャンボは高級時計として完全に筋が通っており、これをキッチリと製品として実現させるところが、APを雲上と言わせしめているのだ。

ベゼルとケース本体の間には黒いゴム部品が見える。このゴムは複雑な形状をしており、ベゼルの八本のビス廻りまでカバーしている。この八本のビスにより、ゴムパーツをベゼルとケースで挟み込んでいるのがロイヤルオークのケースの基本的な構造であり、これで防水性を確保している。なおロイヤルオークの「薄い防水」スポーツウォッチの設計思想は、VC222の複雑なケース構造などにも影響を与えていると想像する。

リューズはAPロゴのないオリジナルだ。ここはのちのAPロゴ付き(14802以降?)のものにリプレースされている個体も多く見かける。素人でも簡単に見分けられるので、もしオリジナルに近い個体を探すなら、こことデイトリングのフォントは要確認だ。

ブレスはGay Frères製である。クラスプにはAUDEMARS PIGUET刻印のものとこの個体のようにAPだけ刻印のものと二種類あり、前者が前期型、APのみが後期型である。どちらも同社製。なおジェンタのオリジナル設計図にはクラスプに「AP」と書かれており、設計に忠実なのは何故か後期型のようである。

そしてこの5402のブレスは、のちに復刻したリファレンス15202と比べてだいぶ薄い。グラスバックの15202とソリッドバックの5402を比べると後者のケースの方が約1mm薄く、実に7mmが実測値だ。よってブレスもケースの厚さに合わせ、バランスが取られている。15202はケースもブレスの厚くなっているので、5402と装着感はまるで別物だ。ソリッドバックでケースが薄いということが、特に私のような細腕の持ち主にとっては装着感に決定的な影響をもたらす。

なお15202と5402ではブレスとケースバックのみが異なるのではなく、ケース形状そのものも異なっている。比較すればサイドの形状などは目視でもわかるだろう。しかし違いはごくわずかだ。

入手にあたり15202も検討対象ではあったが、試着するとラグ前後が明らかに腕から浮いてしまい、私にとって常用は無理と判断していた。15202のケースバックの僅か1mmの差により、装着すると時計全体が手首の面から浮き上がり、スワリが非常に悪くなる。一方5402は良好だ。時計の直径が全く同じであるにもかかわらず、特にケースバックの厚さというのは、装着感に大きな差をもたらすということを実感した。重心も手首中心から離れるので、実際に使った感じは顕著な差となるであろう。夏場の汗による張り付きなどもグラスバックの欠点と言えるが、私の場合、この時計は装着の可否にまで影響していたのである。なお4100STもスチールバックで、装着感はすこぶる良好だ。

 

さて改めて機械について。それはもちろんオートマティックの最高峰の一つ、2121である。興味があれば前述のWald Odets氏のアーカイヴをよく読んで欲しい。私がクドクドと説明するまでもなく、その素晴らしさに打ちのめされるであろう。地板のペルラージュの美しさと言ったら!

ちなみにJLCの[920]はよく聞くキャリバーナンバーだが、JLC銘がローターにある写真は前述の

https://issuu.com/mstanga/stacks/87da5007ac9943428933700e8dcaf400 

で私は初めて見た。現物がいったいどこにあるのか、大変興味がそそられるものの、時計として世に出て、実際に見ることが出来るものは、1120(1121)や2120(2121)、28-255としてVCAPPP銘で現存するのみである。

この機械について、世に出ている噂で多いのは、繊細で気難しく壊れやすいというようなデマに近いものであろう。確かに薄いのでオーバーホールは時計師にとって気を遣うであろうが、ちゃんと整備されていれば普通の使い方で十分に巻き上がるし、精度は優秀なうえ実際に壊れたことも無く、普段使いに何の問題もない。ローターはセンター軸のみで保持しないので、特にローター周りはむしろ1072/2072よりも問題が少ないと聞く。そうでなければ未だに現役の機械としてAPVCQPのベースなどに使うわけはないであろう。

 

さてロイヤルオークはこれからどこに向かうのか。APではRO40周年として素晴らしい復刻版15202を今現在レギュラーモデルとしてラインナップし、ジャンボにとって今後行くべき到達点はもはやなくなってしまったかに思える。しかし、このオリジナルジャンボはジェンタ氏が既にこの世にいない今、年を経るごとにさらに伝説化していくであろう。

5402STの製造本数は、AからDシリーズまで多めに見積もって5000本程度と、Legendaryな時計の中では比較的多いので、探せば出会えるだろうし、世界中を見渡せば今も市場に存在する。ただし価格は明確に上昇傾向であり、徐々にオークションピースの様相を呈してきた。手元に欲しいなら早期の入手をお勧めする。

 

最後に使い道である。時計マニア的な行動パターンからみると、ブレスの防水時計なので真夏に多い時計フェアにつけていくのはうってつけだし、Vintage系でも現行中心でもGTGは両方とも対応可能と、もうあらゆる意味で万能である。カッコよくてこれほどの薀蓄を語れる、こんな時計は他に無い。特に私の個体はフルオリジナルでBox&Papersも含むフルセットである。次代に受け継ぐためにも、一時の所有を許された責任を果たしていきたい。

 

*mstanga氏のアーカイブは、初期にはissuu.comで誰でも読めたが、書籍化して通販する方式に改まっている。私は同氏から複数の書籍を購入した。

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2017年9月13日 (水)

SEIKO SBDX019 復刻ファーストダイバー “62MAS”

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もう最近はJLCマニアではなくセイコーマニア化している拙者レベルソ好きであるが、性懲りも無くまたまたセイコーネタである。昨年あたりからセイコーダイバーに嵌り出したところで今回の復刻のニュース、さらに某筋から「出来がものすごくいい」という情報も有り、買うかどうするか最後まで迷いに迷っていたところ、超絶コレクターT師より「買わずに後悔するよりも買って後悔すべし」との金言が。完全に背中を押されてポチッたブツが予定通り発売日にやってきた。

ここのところのセイコーの動きについては、特にGSを中心にいろいろあり、全体的に見ればいい方向に行っていると思うなかで、この復刻62MASの出来はどうだ。実に素晴らしいではないか。この時計を作った人たちは、セイコー内でGSを手がけている人たちよりも数段マニア度が高いことが、この復刻の出来を見れば一目瞭然である。その時計を見れば、作り手のレベルや意図が手に取るように分かる、これこそが時計趣味の一つの醍醐味なのだ。

特に素晴らしいのは、(わずか0.1mmだけど)40mmを切るサイズで復刻させたという英断である。GSファーストはオリジナルの35mmより3.5mmも太って復刻されたが、一般的にダイバーはデカい時計が多いなかでどれだけ肥大化するかと思ったらオリジナルの37mmに対して39.9mmですよ39.9mm。で厚さは14.1mmとこれも極めて常識的。

さて細かいディテールを未定稿ではなく見ていこう。

今作でも特に良くできているのがダイヤルと風防であろうことは、おそらく大方のユーザで意見の一致をみるのではないか。特に細かい筋目が入ったグレイダイヤルは、光の入り方で印象を大きく変える表情豊かなもの。プロスペックスのラインで復刻しているにもかかわらず、例のXマークなども一切なく納得のディテール。WATER 200 PROOFとしなかった理由は良く分からないが、BOYなど最近の文法に収めたのかな。インデックスや針などはかなりオリジナルに忠実に再現されており、全体的に大きくなっているもののそれぞれのパーツの大きさ・太さ・長さなどがバランス良く、非常によくまとまっていると思う。大きくなったことによる違和感は全くない。

もう一つのアピールポイントである風防。最近はポッコリプラ風防をサファイヤで再現するというのが、最近の時計業界全体でだいぶこなれてきて(中国産とかの質も良くなっているようで)おり、よく目にする。特にこの風防の出来は出色。プラ風防のポッコリ系は、斜でダイヤルを見たときのダイヤル周辺の歪んだ見え方そのものが魅力であり、これが完璧に再現されている。余談だが、今年オメガで出した復刻レイルマスターの風防も、サファイヤにもかかわらずこの「斜で見た時の歪みの味」が明らかにチューニングされていて、非常にいい感じだったけどそれに比肩すると思う。こういうディテールは本当にわかっている人がやらないと形だけマネしたりするだけで、真の味にはなり難いんだけど、ここは拘りもってやっている感がヒシヒシと伝わってきて素晴らしい。ダイヤルと風防だけでごはん三杯はイケるぞ。

そしてSSのケースも、Vintage感あふれる作りなのである。ラグも含めて一様にポッコリとRのついた面は、まさに挽き物という味わいを醸し出していて、その円周方向についたバイト痕、この仕上げしかこの時計には似合わないぞ(たぶんバイト痕そのものではなく、筋目で再現していると思われるけど)。

ケースバックは例のうすーいエッチングでイルカマーク有り。もともとこの年代のセイコーはこうなのだから、あえて小細工していないのは良いと思う。なおシリアルはそれなりのキリ番。

復刻62MASで特徴的なのは、初期ダイバーらしい実に細いベゼル。この繊細さも良いバランスで復刻されてる。ベゼルのカリカリの捜査官もとい操作感も好ましい。

竜頭については、おそらく操作性を優先して若干厚くしているものの、ロゴは古のSEIKOを再現しておりこれもなかなか良い。

最後にストラップ。最近のSEIKOダイバーのシリコンストラップは押しなべて装着感が気持ち良く、このワッフルというかクルドパリ模様を再現したシリコンストラップも非常に良い出来。付属のブレスは全く使っていないけど、こちらは少し安っぽい感があるね。シリコンに力入れすぎたかな。

機械は8L35で、9Sの廉価版とよく言われるけど、8L35は特にダイバー用にチューニングされた高トルク機で、搭載するならこれしかないという機械。4Rとかだったら悲しいけどこの価格帯なら8L搭載は当然か。

 

ということでこのエントリ、もう少し辛口な部分もあってもいいかと思うけど実際ほぼ褒めるところしかないというのが今回の復刻62MASである。なおMASautoMAtic Selfdaterだね。
値段についてはいろいろ言われているみたいだけど、このクオリティにしてみればむしろ安いぐらいだ。その証拠に国内500本はあっという間に捌けたようで、現在は若干のプレミアつきで売買されているみたい。こんな製品は最近のセイコーではかなり珍しいのではないか。

ということで、グランドセイコーファースト復刻も含めてセイコーの復刻製品は極めて好調を維持している。次作ダイバーも実に楽しみだ。

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2017年9月10日 (日)

【苦言】P478BWSbrの写真

私のWebsiteのこのページにあるGeophysicの機械ですが、「トキノタワゴト」表記をわざわざ消した写真

O0601040013307926249
がWeb上に存在するようです。誰がこういうことをするんですかねえ。
使うにしても加工はやめていただきたいし、事前に連絡してもらいたいものです。使うなとは言いませんから。
で何度も書きますが、著作権は放棄していません。

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2017年9月 9日 (土)

GRAND SEIKO First “3180”

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今年のBASELで、グランドセイコーファースト復刻が華々しくアナウンスされた。そしてその直後、ホンモノのファーストが手元に来た。例によって広島方面から来た確かな品であり、所謂彫文字の初期型、大御所曰く61年の24月頃の個体、とのことである。なお大御所とはもちろんBQ師であり、LOW BEATでの3180に関する記事も記憶に新しい。きわめて多くの個体を取り扱った同師の記事だけあって、様々な物証や歴史的側面から事実を解き明かした内容は唯一無二であり、ファーストの全体像のみならず個々の違いにもフォーカスを当てているので、興味のある人はこれを読めば3180に関する追求は終わってしまう。よって本エントリは、単なる時計好きの一ユーザとして、これまでの経験や知識を踏まえた個人的側面からこの時計を捉えたものとしたい。

とはいっても最初は一般的なことも少し記述する(ヲイヲイ)。1960年、それまでの最高級品であったロードマーベルを超える時計を当時のセイコーが生み出したのがまさにこのファーストであり、セイコーの前に初めて“グランド”の名が冠された。(命名の経緯などはLow BEAT記事を参照。)多くは14kの金張りケース*を持ち、文字盤は基本的にSDダイヤルであるが、ADダイヤルも存在する。

さて以前Sロードマーベルについてはこのエントリに書いた。3180は明らかにこの時計の正常進化版といえるので、話はまたここからスタートさせることにする。

Sロードマーベルは、特に彫文字のロゴを持つSDダイヤルが魅力だ。そして当時のスイス製高級時計と同じような、ゆるやかにラウンドした文字盤、先端がカーブし、適正な長さを持つドーフィンハンド、ポッコリしたプラ風防など、手巻き三針の基本を押さえたバランスのいいデザインを持つ。

ここで時代を俯瞰してみよう。JLCがお気に入りな私にとって1958年と言えば、Geophysicが世に出た年として重要である。そのころPatekの手巻きは12-40027SCで、VCJLCエボーシュの449/450系を主体として時計を作っており、IWC89の時代である。もう少し以前の30年代後半、Patek96にて三針時計の基本的デザインが確立したのち、20年程度経過したこの時代はラグ形状や文字盤、ベゼルなど様々なデザイン上のバリエーションが広がりつつ、どのメーカーも基本的なデザインの時計は抑えていた、そんな時代である。

かたやセイコーは、スイス勢をお手本にベーシックな本中三針手巻き時計を作った。それは諏訪で言えばクラウン、マーベルの系譜と言えよう。同時代の国産時計を俯瞰すると、デザイン上あるいは機能上のバリエーションを増やすほどの余裕はあまり感じられず、未だに基本的デザインを持つ三針時計の高級化・高精度化に傾注していたと思われる。

さてこのグランドファーストのケース形状は、ロードマーベルに比べるとやや無骨になり、裏蓋には初めて獅子のメダルが配された。裏蓋はポコ蓋だが外周にOリングの入る防水構造である。またダイヤルはSDが基本であり、初期は彫文字版とこれも初期型ロードマーベルの特徴を取り入れている。3180が出たのちのロードマーベルは彫文字ではなくプリントになったことに鑑みると、最高級品は彫文字、という暗黙知は当時存在したのだろう。しかしそのファーストも、ほどなくして彫文字から浮き出しロゴとなる。一方で今年復刻したファーストにおいて、彫文字はプラチナモデルのみで再現されており、その制作には手間がかかることをセイコーも公言している。私が彫文字の3180に拘ったのは、そんなことも理由である。

さて文字盤の色はアイボリーぽいもので、これもオリジナルのSロードマーベルと雰囲気は非常に近い。SDダイヤルなのでインデックスは14金または18金である。Sロードのインデックス形状は世代によって微妙にマイナーチェンジしていったが、グランドセイコーファーストでは、モデル全体を通してほぼ不変である。ドーフィンの針の形状もSロードと殆ど同じ。では何が変わったのか。大きく変わったのは、その機械の大きさである。3180とはまさにこの機械のことを言う。

とはいえ機械は外径が大きくなった(25.6mm27.6mm)にもかかわらず、輪洌配置も含めそのブリッジのデザインは殆ど変わっていない。手堅い設計をしているとも言える。ここで機械のアピアランス、すなわちデザインや仕上げについて言及すると、正直、当時のスイス製の雲上高級機と比肩できるレベルには残念ながら至っていない。

さて当時の国内マーケットにおける高級な時計とは何か、を考えてみよう。もちろんセイコーからの答えは、初めて”グランド”の名を冠したセイコーで間違いない。

その当時、ユーザに訴求した時計のランクを差別化できる分かりやすい因子は、文字盤に直接書いてあるのでこれは非常に分かりやすい。それは耐震装置と石数、それに精度だ。故にグランドセイコーファーストの文字盤には、誇らしげに”Chronometer Diashock 25Jewels さらに最高級品質文字盤の証であるSDマークが存在するのだ。多石化については一般的に、香箱真に石が入った後は、どんどん伏石が増えていく。そして3180はほぼ手巻きの限界である25石となっている。これは文句なく高級と言えるだろう。

一方で、機械の意匠や仕上げなどは時計師しか見られない部分については前述した通りであり、これが3180が3180たる理由の一つとして挙げられるだろう。審美性はほどほどで、実用性および精度に振っているのである。

ここで精度の話に言及する。当時の3180はクロノメーターを謳う為、歩度証明書付きで販売されていた。時計師によって定められた基準値以内とするために相当追い込んだ調整がなされており、実際に精度も高かったようだ。さらに同社は良く知られる天文台クロノメーター試験への挑戦も始めるなど、この時期セイコーは高精度であることをアイデンティティーに成長を期していることを伺わせる。しかし、間もなくクロノメーターを文字盤に謳うことが叶わなくなったことは、精度の追及手段としてクオーツに向かうことになった小さな要因だったのかも、と想像している。

ロードマーベルのエントリでも書いた通り、グランドファーストはやはり高級な実用時計であり、真の高級時計である雲上三大とはやはり出自が異なる。スペックや性能は遜色ないが、最も異なるのは機械の審美性に尽きるだろう。

その当時でファーストがこういう時計であるという事実は、国内マーケットの成熟度とも明確に呼応する。戦後の経済成長期における高級な時計とは、管理職以上のサラリーマンの高級実用時計であり、欧州のエスタブリッシュメントが手にする雲上とは、やはり世界が違っていたのだ。そして何よりも、歴史に裏付けられた時計文化そのもののスケールが日本と欧州では決定的に異なっていたである。そして欧州と日本の違いを含む歴史的・文化的・風土的な背景の中における、グランドセイコーに対する当時のセイコーの意識が、なんと今のGSにまで脈々と続いているのだから歴史とは恐ろしい。

 

セイコーホールディングスはこの2017BaselGSをセイコーと切り離し、新たなブランドとして独立させるということを選んだ。基本的には納得できる戦略であると感じている。これまでの国内時計業界のブランド戦略は、それこそ欧州列強とは天と地ほどの差があったのであるが、セイコーは明らかにブランドを育てるという意味・意義を知りつつあり、ブランドを育てる具体的な手法も今後はこれまでと違ったものになっていくだろう。GSは国内ではそれなりの名声があるが、欧州では全く無名に近いという正しい認識をセイコーは持っている。直接CEOから聴いたのだから間違いない。これは朗報である。

ただし、だ。ブランディングには製品のレベルがイメージに追いついていることが必要不可欠である。セイコーは、今のGSは既に最高の製品の一つであるという認識がまだまだ強すぎると思う。自信を持つのは良いが、私に言わせればまだ70点だ。グラスバックにして積極的に機械を見せていけるような製品になるには、まだまだ時間がかかると思うし、それどころか機械の見た目に課題があると認識しているのかも怪しい。でもそれができたときこそが、高級実用時計から真の高級時計へ変貌が出来たときであり、ブランドが確立してくる時だと思っている。正直今の機械は審美性が乏しすぎる。さらに苦言を呈するならば、文字盤側の味についてももう少し考えてもらいたいことがある。一例をあげると、バキバキのエッジでピカピカにポリッシュした面を持つばかりが最良のインデックスではないのだ。それを知るには雲上の三針と何が違うのかを、実際に使ってみて実感しないといけない。雲上などのレベルの高い時計を、GSに係る社員がどれだけ使っているか、キモはここである。自社製品を使っているだけでは、決して目は肥えないのだ。

最後は3180の話から大きく飛躍してしまったが、今後のセイコーを期待を込めてウォッチしていきたい。

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*なおケースはPtSSも存在し、様々な与太話があるが真実はごく限られた人が知るのみである。私の断片的知識すら開陳すると色々と残念なことになる可能性もあるのでここに書かない。

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2017年8月18日 (金)

"好き嫌い"と"良し悪し"の話

趣味は基本的に好き嫌いの世界だ。好きならすればよい、嫌いならやらなければよい。
時計のコレクションも趣味として成り立っているように見えるので、この軸で言えば、「好きなら買え」「嫌いなら買うな」で終わりである。
しかしそれでは良し悪しの話に永遠に進まないので、思いつくままにもう少し書き進める。





「好き嫌い」は、ほぼ、その人の感性による。あくまで個人に立脚するので一般化・普遍化できない。強いて言えば「綺麗なもの」「カッコいいもの」が好き、ここまでは言えるかもしれないが、どんなものを綺麗と感じるか、カッコいいと感じるかは、一般論として論じることができない。感性は感情と置き換えることも出来るかもしれない。きわめてファジーなのである。
一方で、「良し悪し」は、それを判断する為に”知識”と”経験”が必要である。言い換えると知識と経験に基づく「知性」である。特に”知識”は、一般化・普遍化・明文化できる。あまりファジーではない。”経験”も、好き嫌いという”感性・感情”ほどファジーではないだろう。

以上を単純化すれば、「好き嫌い」は”感性”、「良し悪し」は”知性”による。このエントリの結論はこれである。

ここでさらに時間軸を与えて考えてみる。
どんな人も、最初にその道に入ってきた時の知識は殆どゼロだ。
もし時計を買おうとする場合に、大多数の人にとっては限りある予算の中で良いもの・好きなもの・似合うもの・使い勝手のいいもの(後者2つもファジーだ)を選びたいだろう。
ここで「似合う・似合わない」という軸も出てきた。似合うか似合わないかは第三者目線も必要だし、自分が日常で着用するかどうかということの延長には「使い勝手」も出てくる。
趣味が高じていくと一般的に多数所有するようになり、その段階ではもはや「似合う似合わない」「使い勝手」もあまり意味をなさなくなる。しかし数が少ない段階では、これらの評価軸は非常に重要だ。尤もコレクションが何本になろうが「似合うか」「使い勝手はどうか」に拘る人もいるわけで、それはもはや好き嫌いの範疇にすら入ってしまうかもしれない。

入門した時点で、意欲的に知識を蓄えようとする人と、そうではない人は時間とともに大きな差が出る。そうではない人は、おそらく趣味には至らない。そしてその知識は、参照したソースやその質によっても、大いに差が出ることは言うまでもない。ここで、以前書いたエントリ「"耳年増"の評価」の内容も大いに関わってくるが、それは世間的な評価と真実は違うんじゃないか、という「知識」の中身について論じただけにすぎないので、ここではまるっと「知識」ということで片付けることにする。

知識と経験が増えると、おそらく良いもの・悪いもの(良いとは言えないもの)が判断できるようになってくるはずだ。かくして知識が増えていくと、すべてを悟ったような気になる時期を迎えるが、それ超えた先では、これまでの時計産業・時計学には恐ろしい膨大な人類の英知が存在していることに気が付くだろう。そのころには、すっかり好み(好き嫌い)も確立しているはずだ。
知識と経験が増える過程において、それらが好き嫌いに影響は与えることはもちろんある。ネガティブな情報によって好きなものの見方が変わってくることは、往々にしてあることだ。

かくして好き嫌いは、知識と経験によって時間とともに先鋭化されていくのである。

最後に、広田さんに言われて気がついた一例をあげる。
私が大好きなJLCのCal.822。最近の時計に入っているのは822A/2という機械だ。後者はフリースプラング化しているのでスピロフィンもチラねじも無し、テンワは2対のミーンタイムスクリューとなった。良し悪しで言えば、おそらく後者のほうが機能上「良い」。JLCはこの機械を約20年かけて進化させたのである。しかし個人的な好みはやはりオリジナルの822。あれが好きなんだからしょうがない。これこそが感情であり感性なのだ。



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2017年8月11日 (金)

オススメAffordable Watches

15年前なら「NOMOS買っとけ」で済んだ10万円台~20万円台クラスの機械式時計。

しかしNOMOSもじわじわと値段が上がり、あの頃のざっと倍以上だ。NOMOS亡き(無くなっちゃいないが)あとのこのクラスのおススメを、結構ガチで書くことにする。ある意味、時計趣味20年の集大成だ。言っておくが極端なレアモデルでもなんでもなく、各メーカーWebサイトに普通にカタログモデルとして確認できるものばかりだ。全部で10本を選んでみた。順不同。



Doxa Sub300

好きなら買え、の代表。渋すぎる選択だが、コアなダイバーズウォッチファンからは称賛されること間違いなし。言っておくが「コアな機械式時計ファン」程度では、このモデルの良さ・渋さは理解できない。コアなダイバーズウォッチファン限定だ。でもこのような層は全世界でたぶん数千人規模だろうな。それでも良ければ買え。私は10選のなかで一番欲しい。だから最初に持ってきた。

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Oris Divers 65

これは伊勢丹でも買えるほどポピュラー。最近のOrisは本当に素晴らしく、Aquisなど強烈にお勧めしたいモデルはほかにも多数あるが、やはり極めつけはなんといってもコレ。Orisの経営者もデザイナーも本当に分かってるし、要は相当な好き者が、自分が好きなモノをただ作っている。価格設定のキャップは常にあるはずだが、それを感じさせず最善の努力をしている。だから妥協がない。渋い。文句ない。買え。ついでに言うと、限定だがBig Crown 1917はこれまた本当に素晴らしい。中身は芹田だがそんなことはどうでもいい。
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Tissot Heritage Navigator

これも分かっている人しか手にできない、踏み絵的時計。Tissotであるところがまずその時点で踏み絵。これを現代にこの値段で出現させたTissotは本当に偉い。作ってるほうも偉いが買うほうも偉いぞ。あなた、分かってるね!この感覚に到達するまで、 みんな時計を極めるのだぞ。カネ持っているから偉いんじゃない。どれだけ時計が好きかでこの世界は決まるのだ。

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Eterna Super Kontiki

エテルナもまだこの時計を作っているのだ。それだけで偉い。エテルナブランドの歴史上の価値を正しく理解し、このブランドアーカイブを正しく現代流に解釈するとこうなる。未だこれを所有する日本人にはリアルでもネット上でもお目にかかったことはないが、もし居たら、私はあなたにひれ伏す。写真は限定だけど次のblogのデイトモデルも良い。これ見たらETERNAの見方が変わると思う。

http://www.ablogtowatch.com/eterna-super-kontiki-date-watch-review/
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Glycine Airman

もう、ね。グリシンと言えばエアマン。これは熟語。切っても切れない。そしてグリシン(グライシンとも)はエテルナ同様、このモデルの歴史的価値や意味をきわめて正当に理解し、評価し、その結果をこの世に出し続けている。こういう姿勢をメーカーに続けてもらい続ける意味を込めても、買え。2014年に出たオリジナルNo.1がベストとは思うが残念ながら限定。カタログモデルならVinhtageDC-4、エアマンは24時間干支モデルしか買っちゃダメですよ。67年モデルを復刻させたSSTも捨てがたい。
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Laco Friegeruhren

何種類か出ており、未だに本家が作っているんだからホンモノだ。復活ランゲも作っていない。本家が作る本物の意味を本家が正しく理解しているからこそ(もうしつこい)未だに新品で手に入るルフトバッフェ。経年加工したやつとか身悶えするほど雰囲気出ているぞ。買え。おっとMIYOTAのやつは未だに一桁万円で、10万円台ですらない。筆が滑ったと思ってご勘弁を。
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Meistersinger No.2

徐々に知名度を上げているマイスタージンガー。しかし15年くらい前は本当にレアな時計だった。同社の時計と言えば代名詞の一本針。これをしているビジネスマンなど見たことも無いが、きっとそれはみないつも時間に追われているからだ。本当のベストバイは15年位前に出ていた装飾ユニタス入りの限定モデルだが、未だにこのユニタス入りを作り続けているなんて感動的ですらある。
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Stowa Marine Klassik

シャウアーさんが作ってるんだから間違いない。マリクロデザインの時計は様々なメーカーから出ているが、値段と出来、さらには「わかってる感」を加味するとStowaは文句なくおすすめ。是一本君なんか超絶にカッコいいぞ。スモセコ大好きな私があえてMarine Originalを選んでいないのは、スモセコサークルがちょっとだけ小さいと感じるのと、このセコンド針のすーっと細長いこの清々しさに惹かれるから。
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Zodiac Super Sea Wolf

Zodiacといえば、AstrographicSea Wolf。もうメーカー名だけで渋すぎる。Sea Wolfは現在53モデルと68モデルを出していて、両方とも文句なくオススメなのだ。53モデルなら、よりダサい三角インデックスをチョイスしよう。完全に個人的趣味となるがレトロフューチャーでダサカッコいい68年モデルを、ダサさそのまま復刻しているあたりに、メーカーの良識と自らのアーカイブに対するすさまじい情念を感じざるを得ない。特に写真の青赤モデルはセンス最高。
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Lundis Bleus Royal Blue

現物観たことないけど評判がすさまじく良い。作り手の気持ちが時計に入っていることが写真を通じても伝わってくる。独立系の時計師がやりたいことをやりだすと法外な値段になるのが常だが、この価格でここまでやりたいことを具現化しているのは素直に凄いと思う。たぶん10年後には価格が倍になる。好きなら今、買え。
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意外とダイバーズの良品が多くなった。特にダイバーズが好きな人たち(ロレサブ”が”好きな人たちなどは除く)は独特なセカイを構築している。そんな環境を熟知している各メーカーは、その立ち位置をしっかりと理解しているから、復刻時に意味不明なアレンジをしない。これがこの結果になっていると思う。

また上の10本は、買い方にもよるが全部入手しても150くらいの軍資金で何とかなるだろう。同じ資金で雲上手巻き3針を1本買ってもいいが、この10本を買ったほうが趣味的にははるかに凄まじい、と思う。書いた私にはとても出来ない。

あと上記以外にも気になるモデルはあって、例えばHelsonGauge TBとか、JeanRichardTerrascopeとか。

最後にアンダー5万のベストバイもついでに書いておくと、今なら文句なくSeiko Re-issued 3rd Diver Turtle”。 
すべて #個人の感想です

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2016年8月26日 (金)

原理主義というか最初の刷り込み主義

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 最初に時計にのめりこんだ時期に遭遇した時計というのは、記憶の中で本当に色あせることがない。私にとってのそれは一連の90年代に出たレベルソであり、ロイヤルオークジャンボであり、レインボーフライバックである。例えばレインボーフライバックなどは今見ると(というか当時から)ケースはダルダルで当時のロレなどと比べるとそれは酷いものだった。当時のゼニスのマンフレディーニ社長がデイトナを指して「このレベルのケースを作れ」と怒鳴ったとかなんとか、そんな話も聞くほどだった。そうかといっても未だにレインボーフライバックの魅力は少しも衰えない。

 またジャンボに最初に出会ったのは、百貨店の顧客向け食事会だった。15202ジャンボの白文字盤、「これがまだ生産されているのは奇跡的だけどものすごく数が少ない。いつ生産が途切れるかわからないので確実に欲しいなら手付を打っておいたほうが良いですよ」との百貨店の店員の説明をよく覚えている。当時はこちらもそう思っていたし、新品で手に入るのはもうそう長くないなと感じていた。その当時で、確か120程度の価格だったと記憶しており、当時簡単に手が出る代物ではなかったが、漠然としたあこがれだけは強く残ったものだ。

 当時の時計たちはまさにあばたもえくぼ(ジャンボはほぼ完璧だが)、いまだにそう思えるというのはもはや刷り込み主義とも言えるようなものか。
 やがてつまみ食い的ながら知識も多少増えてくると、新作についてはそれなりに良いところ、悪いところが見えてくる。しかし最初に刷り込まれた時計については、何故かその評価軸に乗ってこない。もうダメなところも偏愛対象になるのである。

 それ以降、新作で購入に至った時計は実は本当にわずかであり、結局コレクションはどんどん古いものへ偏ってしまう。ダメなところが許せなくなれば、ダメポイントの少ないオリジナルとかビンテージに偏ることになり、かくして原理主義的になってしまうところが、つきつめたオタクの悪いところだろう。これは自分のことを言っている。気楽に楽しむことが出来なくなってしまっているのだ。
そして最近、時計趣味が一周したと感じたのは、また再び気楽に楽しむということをSeikoの時計を通じて感じることができたためであり、かくして二週目に突入(かコースアウトか?)するのである。

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2016年8月20日 (土)

一周したという感覚

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 言葉に表しにくいのであるが、最近の私には時計趣味が一周したという感覚がある。それには腕に最近お気に入りのSeiko 3rd Diver’s MODをしていて、はたと気が付いた。この時計は針・文字盤・風防・バンドを交換した結果、ケースバック以外にはどこもSeikoなどメーカー名と思しき文字がなく、着用している状態ではメーカー不詳なのである。(ケース形状など見る人が見ればもちろん判明するが)。

 すなわちこの時計は、メーカー名を誇示することが出来ない、すなわち自分以外の第三者に対して、その外見以外はアピールすることができないのである。これこそが典型的な自己満足の世界であり、自分と時計との関係において、自分以外の第三者が意識に介入してくることが皆無、ということである。

 逆説的にこの事実により、それなりのメーカーの時計を腕にしているときには、第三者の目にどう映るかということを、ごくわずかでも意識していたのかもしれない、と気づかされた。そうこのSeiko MODは、”第三者の意識”というファクターが皆無なのだ。銘のある時計との最大の違いはそこである。

 しつこいが繰り返すと、この時計の存在により、これまで銘のある時計を着用していた際には、わずかながらも第三者の意識が存在していたということに気づかされた。ただし世間的にほぼ無名なHentschelやBenzingerなどですでに経験していたはずであるが、本当に銘が無いということでそれが明確に感じられるようになった。

 趣味とは、そもそもそういうものではなかったか。他人にどう見られようと関係なく楽しめるのが趣味なのではないか。このような考えに至ったことが、一周したという感覚を得られた要因だと思っている。
アンダーステートメントの美徳というやつ、だな。

 例によってこの世界では、一周したらロレのエアキンかデイデイトみたいな風潮もある。そしてそれは正しいと思うし認めてもいる。「エアキンやデイデイト」は”一周時計”の具体的な提示という意味では非常にわかり易いしティピカルと思える。しかし、そればかりでもない、と思うわけで。

 なお一周したからといってアガリになるかというとそういうことでもない。二周目、三周目に突入しても構わない。いやひょっとするとここからの世界こそが、本当の趣味の世界かもしれないのである。

PS. 実際に三周目くらいに突入している人は数多く存在する・・・N○○Sさんとか(伏字になってないw)

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2016年8月15日 (月)

Marine Master Professional SBBN025 “Darth Tuna”の水中インプレ

この夏も石垣島に行った。いきつけのサービスでSBBN025とともに6本のダイビングを楽しんだ。以下インプレである。
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潜水用の時計は多くの場合ウェットの上から着用することになる。ウェットを着るときに(袖を通す時に)時計やダイコンをどうしているのかは人によってスタイルが違うと思うが、ストラップ端を噛んで保持した状態で袖を通す人というのは一定数いると思う。私はこのスタイルで、ウェットを脱ぐときも同様である。

石垣島のダイビングはほとんどがボートダイブとなる。お世話になっているサービスの船はダイビングボートとしては平均的な大きさであり、エントリーは基本的にバックロールだ。

さてウェイトつけてバルブ開けて機材を背負って船べりに座る。そしてエントリー。カメラを貰ってとりあえずインフレーターからエア抜いて静かに潜行。2~3mで一回耳抜きしてさらに沈んでそのまま着底。私は意外とダイバー体質で、最初の耳抜きは意識して実施するものの、それ以降はほとんど顎を動かす程度でポコポコと耳が抜けるのだ。サイナスの不安も無い。
さて着底した時点でツナの写真を撮った後にベゼルを回す。地上で回すよりもなぜか軽く回るような気がするのはサブと同様、このツナもだった。

海中で見るツナはとにかく黒一色であり、針とインデックス類だけが白いため視認性は当然ながらきわめて良い。水中では視野も動きもとかく制限され、少しのことがストレスになるので、見やすくてわかりやすいというのは単純に良いことだ。まずこの当たり前のことが明確にクリアされていることが、ダイバーウォッチとして成立する大前提である。その点、歴史あるセイコーの外胴ダイバーは完璧だ。

視認性において、重要なのは分針である。すなわちボトムタイムが何分か、ということがすぐにわかることが重要だ。オメガのプロプロフの分針のデザインなどはその顕著な例であろう(赤い色は水中ですぐにつぶれてしまうけれども)。一方このマリンマスターシリーズは、セイコーダイバー50周年の機会に、従来のセイコースタイルを大きく変えて、アワーが矢印、ミニッツがバトン(というかペンシル)に変化した。この変化はこれまでもいろいろ言われており好みの部分が大きいが、視認性という観点からは時針分針を全く迷うことも無く、非常に見やすいということが結論である。

また夜光も水中では重要であるが、穴の中のような暗い場面ではかなり強烈な光を発しており、この点でも必要充分であった。機能という点で防水性については、潜ったのがたかだか十数メートルなので完璧であることは当然である。

さて新しいシリコンバンドはどうだったか。これは従来のウレタン製よりも柔らかくて肌への当たりもやさしく、蛇腹状の形状が非常によく機能する。この「機能する」という意味を少し書くと、水中ではウェットも人間の体も水圧で痩せ気味になり、地上でちょうど良いバンドの穴位置が、水中では多くの場合ユルユルになる。しかしセイコーのバンドの蛇腹形状はこのクッションとしての機能があり、シリコン化によってさらに柔軟になったことで、より機能しやすくなったと感じている。すなわち地上でややきつめに巻いてもバンドが柔らかいので痛くならず、水中ではユルユルにならずに腕で回ってしまうことがない、ということだ。ウレタンバンドのダイコンなどが水中で回ってしまうことをダイバ ー諸氏は何度も経験しているだろう。使ってみればこの差は明確にわかると思われる。

以下は非常に感覚的ことを書く。ダイビングの機材は総じて”大味”である。精密機器の「時計」という範疇で言えばツナはおそろしくガサツな感じ(というか道具感)を受けるが、水中では、あるいはダイビングという行為をするなかでは、他のダイビングの機材に比べてそれはやはり”精密機器”であった。そしてそれはプロの道具としての存在感、ひいては安心感に繋がるものである。

セイコーが50年熟成させたダイバーズウォッチは、本来の仕事場で本領を発揮する。まさしく本物のプロの道具と言えよう。その実力は到底ファンダイブ程度でその真価がわかるようなものではないが、その一端は感じることができ、より一層この時計が好きになった。

今後海に潜るときは必ず、この時計を左腕にすることになるだろう。

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上の写真はモザイクウミウシ Halgerda tessellata

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