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2019年11月 5日 (火)

要望叶わず >> APによる旧製品のメンテナンスについて

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機械式時計の維持には修理やオーバーホールが欠かせない。気持ちよく使い続けるためにはアフターサービスが非常に重要である。時計に法定点検などの義務はないものの、アフターの重要性は自動車業界に近いのではないかと感じている。家電業界レベルではとうていおぼつかない。

時計に限らずモノとは、購入フェーズはその一瞬であるが、維持管理は所有している間ずっと続く。新品購入したモノは、アフターについても暫くセールス担当は面倒を見てくれると思うが、いずれ居なくなったりするし、維持管理フェーズにおいては、ホールセール担当の印象などはどうでもよく、アフターをどこに任せるか、が重要になる。すなわちメーカー純正修理か、修理専門会社にお願いするか、である。ただしこれらは明確に二分されるものではなく、純正修理を市井の修理会社に任せているメーカーが大半であるため、実際にはグレーとなる。ただしそのメーカーとの契約内容は厳密であり、パーツの横流しなどがバレれば非常にまずいこととなる。なお国内修理部門や国内修理会社に任せられないような特殊な修理については、本国送りになるのが常である。

さて修理会社を選ぶときの実際は、時計師さんとの信頼関係構築が重要となる。(現在の環境は、ありがたいことに個人的には非常に満足している。)しかし、純正パーツが以前のように市井に出回らなくなっており、純正パーツの交換がマストな修理は時計メーカーの修理部門にお願いせざるを得なくなってきた。このような場合、時計師さんとのリレーション構築は希薄になるし、関係構築する以前に”会社の方針”がほぼ確実に立ちはだかる。そして修理の対応に関しては、会社の方針や取り決めと、対応いただいたフロントマンが印象のほぼ全てとなる。

ただ印象などはこの際どうでもいい。大事なのは(するかしないかも含め)仕事の内容と結果であり、その時計を調子よく維持でき、普通に使い続けることができるか、ということに尽きる。繰り返すがメーカーとしての対応の幅(出来ること、できないことなど)は会社の方針や取り決めによるため、メーカー修理の印象は、そのメーカーとの信頼構築そのものになる。ただし一方でどんな世界でも特別扱いが存在するものであり、VIP顧客はその融通の幅が広がるし、面倒な依頼をする末端顧客ほど対応は塩っぱくなる。以下に記すのは後者の典型的な例である。

ロイヤルオーク4100STのメンテナンスに難を抱えている。当初この時計を手に入れた際、まずは正規でオーバーホールしようと考え、AP銀座ブティック(まだウナギの寝床のような細長い店舗だった時代)の門を叩いた。しかし修理に際して新型機械(2125)への交換が必要になる可能性が高い、という返事であったことからAPをあきらめ、信頼のおける時計師によってオーバーホールを実施してもらい、すっかり気に入って普段使いしてきた。それ以降5年程度経過したため最近もう一度オーバーホールしてもらったところ、お陰様で機械は至極調子が良いものの、世に出て四十年以上経過しているこの時計のガスケット類がそろそろ限界を迎えているとの話も聞き、なかなか普段使い出来ない状況になってきたのが今である。

ここで話は入手時に戻る。そもそもこの時計を入手した最大の理由は、キャリバー2123が入っているから、である。今もJLCのメインキャリバーとなっている889(後継は899)が誕生したのは4100STが世に出たからだ。前にも書いた気がするが、5402よりもう少し小さい時計を日本市場向けに作れないか、APに日本デスコが望んだ結果、JLCからの回答が900ベースの2123であった。すなわち889の始祖である2123を積んだ4100STという存在は、特にAP=JLC間の歴史的な意味があると思っている。

そんな4100STのオリジナリティを維持しつつこれまで同様に愛用していきたいと考えるのは、この時計を所有し、愛でるオーナーとして当然だ。ただしガスケット類は二次マーケットでの入手が難しいためAPにお願いするしかない。ここでもう一度、無理を承知でAPにお願いしてみることにした。条件は、機械はオーバーホールしてあり至極調子がいいのでいじらないこと、ガスケット類の交換のみをお願いしたいこと、防水性の保証などは一切求めないこと、である。加えて、竜頭が新しいもの(AP刻印付き)に強制交換となることは知っていたため、事前に海外オークションでこれのNOS竜頭を入手した(奇跡的!)。これで交換されてしまってもオリジナリティは担保されるため、お願いしてみる下地はできたと判断したのだ。しかしながら、持ち込み一週間後に木で鼻をくくったような同じ回答を再度受け取ることとなる。すなわち、「社外にて作業がされている時計に対して、パッキン交換のみなどの限定修理は致しかねる。新型ムーブメントへの交換見積もり費用は〇〇万円、針も強制交換」である。

Alas! まあそんなところだろう。AP日本は本社の意向を聞くしかないのだが、その本国APの方針はこの通りだ。これを受けて2125をセカンドマーケットで入手して、換装して送ることまで脳裏をよぎったが、そこまでする必要があるのかと考えてアホらしくなった。自前で何とかするしかない(当てがないことはない)と決心したのが今現在である。

まあ感じ方は人それぞれだろう。古い機械を新しい(より信頼性のある)ものに取り替えてくれるんだからなぜそうしないのか理解に苦しむ、という人もいるだろう。しかし私は、APによる純正修理で強制的に2125に変更されるというのは、むしろこの歴史的アーカイブへの冒涜であると感じるのだ。それ以前に調子よく動いている機械を交換する理由も全く理解できない(交換されたら却ってこないことも自明である)。でもAPはこのようなネオビンテージ時計に対しても、まるで新品にするかのような、新品に近い時計と同じようなメンテナンスを志向する。

このスタンスは、アーカイブ部門を創設しマイケルフリードマンを雇い、過去の魅力的な製品を発掘し、それらの価値を保存し、あるいは高めていく方向性とは矛盾しないか。APがかつて出版した「Royal Oak」という豪華本には、4100STのダイヤインデックスの個体の写真が大きく載っており、スペックには当然「Cal.2123」と書いてある。オリジナルスペックはまさにこの通りだ。

ビンテージウォッチ愛好家はほぼ例外なく、極力オリジナルの姿を保ちたいと思っているし、メーカーもオリジナリティを重視しつつ、快適に使えるように維持管理してくれる方向性を志向してほしいと思っている。一方でこのAPは何なのか。APはこの時計を使い続けてほしいと思っているのか。APはこのネオビンテージ時計の価値をどう思っているのか。私の中での答えは定まった。今現在3本所有するAPの時計に罪はなく、APの時計は大好きであるが、今の会社の態度は好き嫌いで言えば間違いなく後者である。それはとても悲しいことだが。

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