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2019年4月12日 (金)

APのCODE 11.59

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APCODE11.59を見てきた。写真では伝わりづらいと多くの人々が言っているが、ほぼ写真で見た通りであまり新鮮な驚きというものは無かったのが正直なところ。特に確認したかった、二つの変数を持つ面構成の風防の印象はほぼ写真から想像した通りであった。斜で見たガラスの「グルグル」は、ド近眼の私のメガネのようでもあり、かつ「表と裏の曲率のあっていない古のサファイヤ」の歪みを彷彿とさせ、どうしても私にとっては安っぽく見えてしまった。狙ってやったかのような解説ではあったものの、私にはマイナスポイントに映った。むしろ「クリスタルはその複雑な面形状に完全に追随した一定の厚さを備えているため、斜で見ても一切歪みが無い」ほうが、よほど高級感を醸し出したのではないだろうか。

針は古のAPの一つの型と言えるバトン。ただしアワーとミニッツの太さまで変えたのは古に範をとらないディテールと言えるが、もう少し差を分かりにくくした方が好み。インデックスの数字も、ある年代のAPに見られるフォントであり違和感はないが、私はあまり好きなタイプではない。

何重にも重ねて塗ったラッカーを研ぎだしてあるダイヤル面は非常に平滑(見たのは黒と濃紺)で、とろけるような質感を出しており楽しめるポイントだ。ただその厚さが災いしてデイト窓が深く感じ、かつファセットや枠もつけていないため、デイトリングの黒の梨地と超平滑なダイヤル面との対比が思った以上に印象に残ってしまい、私は残念な点だと感じた。これはデイトを単純に無くしてしまえば良いだけだと思う。デイト機能を付加したい気持ちは分かるが、ならばいっそ白地にしてしまっても良かったのではないか。

ケース形状はこれまで前例がないほど複雑である。それがどのような効果を生み出していると感じるかは人それぞれの感性によることは当然であるが、肉抜きされたラグの存在が目立ち、サンドイッチされたミドルケースのロイヤルオークオマージュが目立ちにくい。プロジェクションマッピングでも執拗に丸と八角形が強調され洗脳してくるが、それを知らない限りあまり気づけないだろう。とはいえ形状は正確でエッジも立たせるところは綺麗に立っており、稜線の安定感など相当なもので、サテンが多い仕上げも綺麗かつ丁寧だ。ケースは流石の出来であり、この形状のケースをこのクオリティで量産できるということは、素直に凄いことだと思う。切削機を含めた製造プロセスの進歩は物凄い。なおCODE11.59はシリーズ全てで、生産数は年間2,000個までと決めているようだ。今や年産36千個とも言われるAPのなかでは小さな集団と言える。しかし製造本数随分増えたな。

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さて中身について。3120に比べ二回りも大きくなった機械はみっちりと入っていてサイズ比は好印象であるが、8振動化したことで何故かAPとしてのこだわりを捨て去ってしまったかのようにも感じたのがまず最初のポイント。それと今更方式にこだわる時代ではないと思うものの、個人的に高級機はやはりスイッチングロッカーだという固定概念もあり、リバーサーとなった結果より広い面積となったムーブメント全体に対して機械として機構が色々と詰まったようなミッチリ感は無く、見た目的にも少々寂しいムーブメントと感じた。ひょっとするとルノー・エ・パピにとって浜口氏を失ったことは、思った以上に打撃だったのかもしれない。なお機械の仕上げはAPとして並である。勿論凡百のメーカーよりは当然良いが、おそらく最初期ロット故の不安定感(べベル部分の均一性とか)を感じた。おそらくこれは今後向上してくるであろうし、初期またはプロト特有の問題だろう。ただ完全に個人の趣味だがこの機械を見せるくらいなら、ソリッドバックがベターだな。(また言ってる)

マーケティングは相変わらず派手で、それ自体は六本木でパーティーをやっていた10年前と何ら変わることが無いスタンスである。顧客として明らかにそれ系を狙っているのだがその方針は、遠いルブラッシュの熟練職人に想いを馳せ、古いAPも愛でてきた層にはリーチしにくいだろう。メゾンのアーカイブを大事にする姿勢はマイケル・フリードマン(そういや彼に以前会った時、Y師は彼の靴を褒めていたな)を社員にしてしまったことなどからも十分に伝わることなども踏まえると、顧客としてはもうあらゆる方面に触手を伸ばしているような印象であり、そんなところは今も一昔前もあまり変わらず、むしろAPらしいなと思った。

因みにクロノも弄ったところ、ボタンの操作感は現代の時計として平均的。30m防水ながらOリングの存在を感じるやや重めのもの。リセット時のクロノ針のブレは皆無、クロノ針のマスやバランス(細さとデザイン)をよく検討していると思われ老舗としての手堅さを感じた。なおクロノの機械のほうが当然凝縮感があり、ブリッジの形状やコラムホイールの見せ方が非常に現代的。一度でも1185を使ったことのあるメゾンは、自社で内製したクロノムーブメントと言うもののF.ピゲの影響を色濃く感じるねえ。

最後に。CODE11.59は事前のティーザーから絨毯爆撃のように宣伝しまくったので、もし今これをしていたら時計痛もとい時計通の間では「おっ」となると思うけど、なんとなく一発受けに300は厳しいなあと。あと今回は事前のリーク騒動がごく一部で話題だが、まあ新製品のリークで話題になる新型iPhoneのようなものと捉えれば、話題も関心もさらったという点では十分な宣伝効果を得たのではないかな。

ということで、私は買わない(買えない)というだけで特に結論はありません。このあとどう育つのか興味はあります。

 

 

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