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2019年2月20日 (水)

Longines Ultra Quartz 6512

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クオーツ開発戦争のなかでロンジンが生み出した異端中の異端。ウルトラクオーツを一言で言うとこんな感じか。その異端ぶりはそのムーブメント外観から特に顕著である。一つ一つ手で半田付けされたと思しき抵抗やトランジスタ群。そして真ん中に発振子そのものが鎮座する。まるで昔のラジオか音響機器みたいだ。

この時計が世に出たのは1971年のことであるがその2年前、ウルトラクオーツというインハウスムーブメントの発表は1969年であった。クオーツウォッチ開発競争はSEIKOが数ヶ月の差で勝ち名乗りを上げ、ほぼ同時期にスイスの時計連合はCEHコンソーシアム(Centre Electronique Horloger,1962年ニューシャテルに設立)をハブに、Beta1,2を経てBeta21を生み出した。スイス時計メーカーはクオーツ開発競争においてはCEHにすべてをかけていた。と思いきや、唯一ロンジンだけが自社開発(正確にはローザンヌにあったBernard Golay S.A.と共同開発、砂時計プロジェクトと名付けられた)と二股をかけていたのである。結局、そのウルトラクオーツはBeta21とほぼ同じ時期に完成した。ただしBeta21はとても高価だったとも聞く。かくしてロンジンだけがウルトラクオーツとBeta21搭載機の両方を発売するという、滅茶苦茶な状況となったわけである。

セイコーのクオーツアストロン開発秘話はそれなりに見聞きするし、その対極として語られるBeta21も有名である。しかしこのウルトラクオーツの日蔭ぶりは半端ではない。1971年から1973年のわずか2年間しか製造されず、その個数は約2000個と言われている。現存してマトモに動く個体も少ないという話で、レア時計の一種であろう。

ロンジン・ウルトラクオーツはこのTVスクリーン状ケースのモノと、丸ダイヤル・クッションケースのものの2種類が存在する。SSケースであるがGPもあり、かつ文字盤デザインも複数確認できることから、売り出した時はそれなりのバリエーションを揃えて大々的だったことが伺われる。また当時のアドバタイズとして、新聞全面広告のようなモノも確認できる。

ケース違いの二種も基本的な構造は全く同じであり、電池の裏蓋とフィルムカメラの巻き上げ軸のような竜頭がいずれもケースバックにつく。よってケースには横に竜頭がなく、文字盤デザインも含めて70年代初頭感たっぷりのレトロフューチャーである。この年代は機械式時計も(レトロ)フューチャー流行りだったので、クオーツならではの独特なデザインというものではない。が決定的なのはやはりバックリューズだということだろう。時計はブレスとストラップの両方が市販されたようだ。

さてこのウルトラクオーツ、まず運針はBeta21同様スイープであり、ブイーンとものすごく大きい音がする。さぞや電池の持ちは悪いだろう。これは使っているうちに判明するはずだ。

そして実際に使ってみて分かったこととして、腕にしているとき、すなわち一定の温度を保っている時は日差01秒という驚愕の数値をたたき出す。しかし冬場低温下に置いておくと一日に数分も遅れる。最初にこれは、クオーツ発振子の設置方向による姿勢差なのではないかと疑ったが、どうやら温度差で間違いないようだ。機械式時計で言うAJUSTED TO HEAT AND COLD、これが調整出来ないようなのだ。確かに今の7C46クオーツなどでも冬場の方が若干遅れ気味になる。低温時に遅れ、高温時に進み方向になるのはもともとクオーツ時計の性質なのだろう。なお機械のブリッジには堂々と「UNADJUSTED」と刻まれている。

先に発振子と簡単に書いたが、その振動子は音叉形状ではなく9350Hzで振動するバーで構成されていて、これを可動コイルと固定された永久磁石で駆動する。振動子の途中から垂直方向に細い腕が生えており、その先端にルビーがついている。これがラチェットとして機能して170歯の歯車を回す。これが原理である。この歯車に直結されたウォームギアにより回転方向は90度変換され、秒針分針時針の輪列に至る。ステップモーター式ではなく、このようなやや無理矢理感のある駆動方式なのでスイープ運針なのだ。

機械というか基盤というか、これはもう手仕事感満載の電気装置である。よく短絡していないな、というレベルで19個の抵抗、14個のトランジスタ、7個のコンデンサが入り組んで配線されている。なおBetaやクオーツアストロンとの決定的な違いはICが無いことに尽きる。クオーツの開発・製造はCMOS-ICの安定供給にかかっていた側面があり、この供給元はアメリカであった。なので場合によっては、時計産業はアメリカから大きく復活する可能性もあったわけだ。ところがウルトラクオーツはICが無い為、比較的安価かつコンソーシアムを組むことなく2社で開発し切ることができたのだと思われる。

ここでいま一度1960年代後半に想いを馳せてみたい。既にクロックは存在していたものの、この世にまだ水晶発振子を持った腕時計が生まれていない時代、機械式とは比べ物にならない超高精度を求めて、機械式腕時計に代わる存在として開発されていたのがクオーツウォッチだ。競合はオートマチックの機械式時計であり、それは自社の製品を食うことも意味するかもしれない。しかし時代は着実に進んでおり、スイスは極東やアメリカの会社に負けるわけにはいかないのだ。(勿論アンダーグラウンドではプレイヤーたちは敵対もすればアライアンスも模索していたはずだが。)そして競合製品が機械式なら、コストは機械式ムーブメントの製造と同程度まではかけることが出来、精度で上回るという価値観だったと想像される。しかしながらCEHで生まれたBeta21は大変高価だったと聞く。一方でこのウルトラクオーツはコストを抑えることを主眼に独自開発されたわけであり、それがどこまで実現できたかは分からないものの、見た目の異形感もそのコストを抑えるという目的を考えてみると妙な納得感はある。なおウルトラクオーツの水晶発振子駆動方法はBeta21に酷似しており、別物であることを証明するために当時のロンジンは苦労したようだ。どういう手打ちかは分からないが結果としてロンジンはBeta21600個購入することになり、先に述べたように異なるクオーツムーブメントの時計を併売するという結果となった。このような話を今聞くと「何を馬鹿なことをやっているのか」とは思うものの、逆に切迫感・ひっ迫感を感じさせ、当時の妙なリアリティがあると感じる。

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ここまで中身に纏わる話にほぼ終始してしまったので改めて時計本体を見てみよう。TVスクリーン型のケースは、ケースバック部分が分厚く重量感がある。ラグを省いたのは、バックリューズと相まって近未来感を出したかったのではないかと想像しており、それは文字盤デザインにも顕著である。針とインデックスのデザインは完全に整合しており、存在感のあるデザインはこの時代のものに比較的よくみられる。おそらくステンレススチール製のインデックス・時分針に白っぽい夜光(既に光らない)に比べて、秒針はとても目立つ。これはステップモータークオーツではなくスイープ運針であることを強調したかった結果と考えている。LONGINESと羽根つき砂時計のロゴはアプライドで、ウルトラクオーツの圧電素子を単純化したようなロゴマークもアプライド、3点ともに出来は良い。風防はプラでベゼル面よりもやや張り出しており、面はフラットだ。トータルで見て、視認性は高い。そもそも厚さがあるうえ、電池蓋とバックリューズのお蔭で手首上では少々浮いた感じがするため、しっかりと手首に装着したほうが良いタイプの時計である。そういう意味では厚めのブレスの方が実際に使う分には優れる気がするものの、ラグ幅というかばね棒幅は22mmもあるので幅の広いストラップが装着可能であり、そこでバランスを保っているのかもしれない。今現在は22mmNATOであるが、実はバックリューズの時計にはこれが汗除けになるので合理的、かつベルト幅も全周一緒なのでトップヘビーに対して幅で勝負して負けていない感じであり、意外だが装着感はそれなりに良い。使っていて単純に楽しい時計である。

最後に、完全に時代のあだ花のような存在のウルトラクオーツ、その出自やその特殊性から、スイス時計を愛する諸氏もなんとなくコレクションの一端に加えたくなったりはしないだろうか。クオーツの沼も底なしである。

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