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2007年9月 5日 (水)

H.モーザーのインプレ

SNSに書いた内容の加筆修正版である。
東邦時計が日本における正規代理店となり、その発表の場(M&Rサロンドモントレ銀座)にて複数のモデルをじっくりと見る機会に恵まれた。
MAYU
に関しては、とある機会に既に見せていただいていたが、意外と大振りだと思ったことと、機械の独創性が凄いと思った印象がある。

今回は一応各種モデルを見られるということで、次の3点あたりを確認しようと思って出向いた。
それは、

(1)
あのデカい日付表示はどうなってるのか?
(2)
エナメル文字盤の仕上がりはどうか?
(3)
改めてそれぞれの部品の仕上がりを見てみたい
というようなものである。

(1)に関しては、ディスクが2枚重ねになっているという、分かってしまうと「なーんだ」的な着想で実現していることを知り、大いに感銘を受けた。見るまでは本当に不思議で、こういった単純な機構で実現することが素晴らしいと思う。個人的に2つの窓で表示するビッグデイトがあまり好きでは無いのだが、これは違和感無い。デイト表示そのものがあまり好きでは無いのだが、この機構を楽しむためにはありだと思う。またデイトつきにはダブルプルクラウンシステム(DPC)という、これも目からウロコ的な機能がついている。これは、デイト表示の調整のために竜頭を一段引くが、普通の時計は加減しないと一気に針調整段階まで引けてしまうのを、ロックをかけて確実に「デイト調整」「時間調整」が出来るようにするものだ。こんなところにもストレーラー師の意思が感じられて好ましい。ただしこの機械で唯一ここに線バネが使われており、これはプレスでも良いからなんか板材にして欲しかった気はするが、コストとの兼ね合いがあるのは十分に理解できる。

(2)これは本当にラッカーじゃないかと思えるほど表面のプツプツが無くて、物凄い仕上がり。私にとってはあの表面のムラっけがエナメルの味だと思っていたため、ここは完全に認識が変わった。あの白さと平滑性のインパクトは強く、素晴らしい。もっと博物館レベルの美術品を見なければ審美眼は磨けないな、と反省。

(3)それぞれのパーツの仕上げ。機械は良い感じで、あのオルタネートストライプが許せるか?は全く個人の好みであろう。各ブリッジエッジの仕上げなどは90年台頃のJLCレベルか。正直三大には及ばないな、でも十分に美しい。というのが直接見て思ったことである。青ネジ使わないのは何かポリシーがあるのであろうか。

仕上げに関する話は続く。
帰宅後カタログを見ていて、MAYUMONARD Dateやパーペの機械では、ブリッジのエッジの仕上げが全く異なるのに気がついた。MAYUは製造ラインで仕上げられたデリバリーベースのもの、それ以外はプロトであろうというのが私の印象である。MAYUはおそらくCNCで施されたであろう、45度にCが綺麗にとってあり、それ以外の機械のブリッジのエッジは、あくまでカタログ写真上では素晴らしい輝きだが正直ムラムラ、ダルダルである。製品ベースでは後者もMAYUのようになってくると思われるが、M&Rではそこまで全然気づかなかった(またキズミも持って行かなかった)ので、最終的な製品がどのように仕上がってくるのかは、機会あれば個人的興味のためだけであるがぜひ確認したい。

さてここで二択。
MAYU
のようにピチっとしたエッジが「機械により」出ていたほうが良いのか?あるいは手作業であるが熟練していなくてダルダルだけど輝きは素晴らしいほうが良いのか?は究極の選択。製品ベースではユーザにとって選択権は無くなってしまうのであるが。
もちろんCはきっちりとCNCでとっても良いが、そのあと「熟練職人が」ホウの木のツールにダイヤモンドペーストつけてコシコシ磨いてエッジも輝きも両立している、というのが最高なのだがそれじゃ+100万円になってしまうであろう。

もうひとつカタログを見て気がついたのが、日の裏側がペルラージュじゃなくって粗めのサンレイ仕上げ(AP本で言うと明らかにIndustorial Methodであろう)だったりとか、ジュウ渓谷様式とは異なる点である。だからブリッジのエッジにこだわるならば日の裏側はペルラージュびっしりであるべきだが、この時計はスイス時計ではあるがドイツ国境に近いシャフハウゼン製、古はロシア帝国に輸出していた会社という特異性を考えると、こんな様式にこだわっても意味が無いように感じる。こうなるともはや気に入るか気に入らないかだけ、そういう話。ブリッジの形状もパワリザ表示も独特だし。

ということで、仕上げは今の三大にはかなわない。でもそんなことに意味があるのか?このプライスとコストを考えれば、これがベストなのでは?という感じで(ある意味妥協も必要だが)、十分に納得できる仕上げである。これはそういうことは分かった上で、機械設計の妙、正当なようで特異性が内在することなどを楽しんで買う時計なのであろう。

外装においては唯一、MAYUのスモセコハンドはもうひと頑張り欲しいなと思ったが、MONARDのセンセコは結構頑張っていて文句は無い。

そのほか、非常に素晴らしいと思ったのは針合わせである。思いの位置にミニッツハンドを止めることが出来、バックラッシュも少ないこの感覚は、私の手持ちで最良のGeophysicとタメを張れるほどで、ここは機械そのものの大きさや歯車の出来に非常に左右される部分だと思う。ストレーラー氏の歯車ヲタぶりを手の感触で感じることが出来る部分で、実に素晴らしい。DPCとともにヲタっぷりを発揮している。

ドラゴンレバー脱進機については、ライトアングルだがクラブトゥースなのでのスイスレバーの範疇に入るものであろう。イングリッシュレバーと錯覚するが、ポインテッドトゥースではない。

機械は直径が大きい分、5振動の割にはちょっとテンワが小さいかな、との印象。金のガンギとアンクルは何で?と思う部分もあり、この耐久性については時間が証明するであろう。脱進機周りは、チラネジつきの5振動、フィリップス曲線を持つ自社ヒゲなので十分に魅力的なスペックだ。脱進機のユニット交換というのはそのメリットが良く理解できないが、いざ調整するとなると脱進機ユニットをファクトリー内でばっちりできるから、これさえ手に入れれば、たいていの時計師ならO/H出来る、そんなところを狙っているのか?

ケースも特徴あり、複雑な形状でエッジも良く出ているし素晴らしい出来だと思う。デザインから相当試行錯誤していることが伺える。独特のケース形状は、既にこのブランドのアイデンティティになり得た感がある。

風防はかなりフラットに近く、好みはもう少しドーム状なのだが、逆に文字盤とのクリアランスが狭く、また針と針の間も密接。故にこれが高級感を感じるように作用しているような気もするのでアリだと思った。

戻せるパーペチュアル!も素晴らしい。グラスバックが手首に沿うように湾曲していたのには結構驚愕した。大きくて厚いが、非常に装着感が良い。デザインはシンプルにまとまっているのか、なんか違和感があるのか良く分からない。今まで現存したどの永久カレンダーとも違っているので拒否反応がある人もいるであろうが、私は嫌いでないことは確かである。

まとめとするならば、総じて現地価格を考えると良く頑張っている、設計者の意思、意図を大きく感じることの出来る良品だと思う。国内価格も他のメゾンに比べれば十分にフェアプライスで、やっぱり良いものは良い。
(しかしエナメル文字盤になるだけで70万円アップってのは、VCに比べればだいぶマシかもしれないがマジ?この差額だけでクロノスイスのオレア余裕で買えるし。)

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