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2007年6月18日 (月)

国産時計への勝手な思い

もう10年位前になるであろうか。時効と勝手に判断して書かせていただくが、栃木県で4輪の研究開発をしている某自動車メーカーで開発に関わる仲の良い友人から聞いた話である。

「セルシオの高級車としての完成度は凄い。あれは、本当に高級車を分かっている人が作っている。方や我々の同じセグメントに位置する高級車Lは、実態は我々のような若造が寄ってたかって作っている。高級車など所有どころかほとんど乗ったこともないようなメンバーだ。まったくイメージだけでつくっているかのようである。これでは、わが社らしく若々しい車は出来るかも知れないが、本来の目標である真の高級車は出来ない。これでは永遠にセルシオを超えることは出来ない」

これが、高級時計にそのまま当てはまると思ったのだ。以降は辛らつなので、できれば国内時計メーカー勤務の方々には読んで欲しくない。もし読み進めるつもりならその覚悟でお願いしたい。

国内の高級ラインの時計がある。これを設計している、あるいはデザインしている人たちと言うのは、直接的に知っているわけでは無いので全くの暴言であることを承知で書くが、本当に高級時計を実際に複数所有し、使っているという人はどの程度いるのであろうか?今のプロダクトから抱く個人的なイメージは、非常に少ないのでは無いか?

国産メーカーは、そもそも欧州の真似から始まっているのは誰も否定できないであろう。過去に素晴らしい時計も作っているのは事実であるが、往年の三大のような超高級腕時計と比肩するものを作ったことは過去一度も無い。この出発点がまず厳しいのである。スイスの三大や大手メゾンは、過去に実際に素晴らしいものを作っていたし、そのようなアーカイヴも大量にある。博物館に行けば歴史的なタイムピースも見ることが出来る。「高級時計」に限ったバックボーンが全く違うのである。この差は圧倒的だ。

そのような環境の中で、高級時計メゾンの社員はヴェテランから教えてもらったり、様々なアーカイヴと接することで本能的に高級時計の本質を見極め、身につけて行き、だからそのような高級時計を作ることが出来るのだと信じている。歴史と環境がそうさせるのだ。一方、ゾンビ系に関しても強力な「時計をわかっている」推進者がいれば、それは見事に帰り咲く。でも、欧州全体にあるバックボーンと言うか歴史と環境と、優秀な技術者の存在は絶対に必要不可欠だ。

さて国産時計を考えるに、私は別に欧州至上主義者でもなんでもないが、厳しいのは事実であろう。繰り返すがその差は圧倒的だ。欧州はそもそも「時計学」という分野が立派に成り立っていたので書籍なども膨大である。

さて特にSeikoに言えることであるが、ではその会社の持つ歴史とは何か?実は華々しいものを持っている。精度を追及する天文台コンクールでスイス勢を軒並み破り続け、はては廃止にまで追い込んだのはほかならぬSeikoという日本企業である。「高級」では無いが「精度」は抜きん出ていたわけだ。その後クオーツショックを自ら引き起こし、精度追求を意味の無いものに変えてしまい、今に至るわけである。現在の高級路線嗜好とはたしかに交える部分は少ない。このような歴史をうまく使って(作って?)広告するのは、欧州企業は非常に上手い。方やSeikoはお世辞にも上手いとはいえない。華々しい過去を知っているのは一部のマニアしかいないのが事実であろう。これは勿体無い。

閑話休題。

ある程度時計好きな買い手(マニア)は、時計をわかっている人が作った時計かどうかというのを本能的にかぎ分ける能力があると思っているし、それは逆にマニアではなく素人のファーストインプレッションのほうが頭でっかちでは無いため的確かもしれない。で、それが何なのかということは極めて感覚的なので、明文化することは非常に難しい。強いて言えば先ほど書いた「歴史と環境」だ。

では国内メーカーはどうするのか?手っ取り早いのは復活したゾンビブランドと同様に本当に時計をわかっている人をプロデューサーにするのだ。最終決定権を、大きな権限を与えることが大事である。

この文章には国内メーカーに「高級」時計を分かっている人はいない、かのような表現が並ぶが、実際はちゃんといるであろう。でも本当に権限のある人がそうであるかは大いに疑問であると言っているのだ。

高級欧州メゾンは決定権を持っている人も時計を分かっている人(最近はそうでも無くなっているような気もするが)で、また実際に作っている人も歴史と環境から本質的な高級時計を生み出そうとする、これこそがまたそのメゾンの歴史になっていくという好循環を描く。

一方、国内企業においては本質的な高級時計を分かっている人の割合はやはり少ないであろう。そして何より決定権を持つ人が、時計を分かっていない。これでは永遠に高級時計を作り出すことは出来ないのである。まさに10年前の某4輪メーカーの事象と同じでは無いか。

暴言陳謝いたします。(ただし強みは「技術」。これだけは明確に言える。)

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コメント

嗚呼、と思わず溜息をつきました。御意。
これまで自分では突き詰めて考えてなかったせいもあって言葉にできてませんでしたけど、このエントリ読んで目から鱗でした。
山の上からは下を見渡せるけど、山の下からは山の全貌はわからない、そういうことなのかあ。なるほどなあ。

ということで私も便乗して暴論書きます。

いつだったかのクロノスかタイムシーンの記事に、セイコーではリピーターの音に驚いたことがソネリの開発に結びついたような旨のことが書いてあって、リピーターも知らずに時計の開発してたの?と大変疑問に思いましたが、だとすれば、ひょっとすると時計学の古い文献をちゃんと揃えていないという可能性もあるのかなあ、とも思ってました。ソネリの文献とかどうしたんでしょうかね。フランス語読めないから諦めたとかそんなだったら絶望しますね(笑

デザインに関しても複雑時計をある程度のサイズに収めることの苦労とノウハウがあるからこそ、シンプルな2針や3針の絶妙なデザインが出てくると私は常々思っているので、その意味でGrand Seikoを頂点としちゃってるとデザイン垢抜けないよなあとかとも勝手に判じてます。

投稿: alpaka | 2007年6月19日 (火) 00時33分

そこで和光のおねいさんですよ(笑)
彼女たちが本心から、自分の上客に薦めることができる国産時計ってあるんでしょうか?

投稿: toku | 2007年6月19日 (火) 01時02分

私もalpaka様同様に目から鱗でした。
時計を選ぶ時、現行のセイコーはいつも次点です。
なんでだろうと思っていたのですが、理由はこのエントリーの通りかなと。
やはりここは貴殿がコンサルタントとして乗り込むべきです(笑)
半ば本気で期待しております。

投稿: gisuke | 2007年6月19日 (火) 12時40分

文献というか近場にライバル他者の現物ゴロゴロしている
のに全然見てないんでしょうね。
alpakaさんとnikaさんを送り込めたら数年でランゲ並みに
化けさせられそうな気がします(;・∀・)

投稿: 白苺 | 2007年6月20日 (水) 08時31分

みなさま、コメント誠にありがとうございます。

>>alpakaさん
過分なコメントありがとうございます。
文献読んでないというかほとんど無いかもしれませんね。開発者・設計者は時計学を歴史から学ぶべきで、読めないなら専属の翻訳家を雇うくらいは当たり前かと思います。
しかしリピーター聞いたこと無かった人が開発とか、もう無茶苦茶です。
デザインに関してもそうですね。複雑系があってシンプル時計がある。この流れ、体系というのはたしかに大事と思います。今年になって初めてクロノ、だもんなあ。

>>Tokuさん
おねいさんの本当の気持ちをインタビューしてクロノスに載せたら面白いかも。

>>gisukeさん
Seikoと名のつく時計は、欲しくても買えないと時計のNo.1であります。どうしても納得できないところがあるんです。ちなみにファイブは一本あるし、クオーツだって3本くらいはありますが高級時計となるとダメなんですよねえ。

>>白苺さん
貴殿が乗り込むのも有りかと思いますが。本物を見て解釈していないとああなるってことでしょう。嗚呼。

新しい竜頭ガードつきのGSのデザインにしても、高級時計を分かっていないインダストリアルデザイナーじゃだめなんだって。どんなにあの形状・あの面を実現するのに加工が難しかろうが、そもそもだめなんだって。なんで気がつかないんだろうなあ本当に。

投稿: レベルソ好き | 2007年6月20日 (水) 11時31分

うはは。
今のお勤めよりも少し給料よくて安定してれば逝くのには
やぶさかではありません(笑

投稿: 白苺 | 2007年6月20日 (水) 14時17分

私も気持ち的には似たようなものです(笑

投稿: レベルソ好き | 2007年6月23日 (土) 00時21分

スイスと比べてあまりにお粗末で下手糞だったセイコーの宣伝も最近少しは上手くなってきてているように思います。

http://www.seiko-watch.co.jp/gs/special/index.html

クロノグラフのフラッシュムービーが公開されていますが
なかなかの力作ムービーではないでしょうか?

投稿: tnm | 2007年6月24日 (日) 19時40分

あらあら、盛り上がっていたのですね。
レベルソ好きさんの視点には感服した次第です。
個人的には、クレドールのスプリングドライブはかなりいい線いっているような気がしました。しかし、あれは何しろ針のクリアランスが大きい。あれが全体の緊張感を大きく削いでいます。そこさえしまっていれば、ほぼ完璧に近いような気がするのですが。細部の仕上げといい、いい線いっているのですが、たまたま、なんでしょうかねえ。あの会社はたしかに肝心なところが抜けていることが多い。

投稿: スプー | 2007年7月10日 (火) 08時07分

>>tnmさん
返事遅れて申し訳ありません。
フラッシュ見ましたがたしかに従来には無い、某スイスメゾンのような出来ですね。これは良く出来ていると思います。
時計は技術的には良く出来ていると思いますが、理念的には良く出来ておらず、ここはフラッシュの出来とは異なりますね。
ま宣伝がうまくなるのはセールス的には必要、すなわち沢山売って財務体質を改善させてより「良いプロダクトを開発するため」にキャッシュを使えるようになる、というサイクルを実現するには良いかもしれませんが、先に「良い製品を作る」ことこそが大事だと思います。
宣伝だけ上手い某メゾンみたいになったら寂しいですし。

>>スプーさん
おっしゃるとおりクレドールSDはバランスがいい。でもやはり詰めが甘い。このクリアランスと長針の長ささえ何とかなっていればSeikoの奇跡になりえたかもしれませんね。
必ず何処か抜けているってのは、人(発言力のあるアドバイザー)で解決するような気がいたします。

投稿: レベルソ好き | 2007年7月10日 (火) 18時59分

今更ながらのコメントですが、仰るとおりの事態になっていると思います。
作り手側がそもそも時計を本当に好きで、良さ(マニア好み)を理解しているのであれば、あれだけ破綻したデザインのものは数多く生まれなかったと思います。
おそらく一族経営の限界や多角化経営のツケなのだと思いますが、セイコーグループ全体でみてもウォッチ部門の勢いは年々衰えています。
集中と選択の結果、仕方のないことかもしれませんがやはり非常に寂しいですね。

投稿: ロン | 2008年2月11日 (月) 06時05分

SEIKOは時計の本質を分かっていない(きっぱり!)ので、本業を選択して集中しても根本的にダメな気がします。日本国民として寂しい限りですね。

投稿: レベルソ好き | 2008年2月12日 (火) 16時45分

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前回の一時的なバブルなのか新秩序への移行なのかを受けて、じゃあ次に何がくるのか、というのを書いてみたくて少しブレインストーミングしてたんですが、レベルソ好きさんに次代の潮流その2と国産時計への勝手な思い立て続けにツボにくることを書かれてしまったので、私としては頭の整理ができて大変ありがたく思う一方で、あれ以上に書けることなどあるのだろうか、と思いもするのでした。 でもちょっと書いてみます。... [続きを読む]

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