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2007年5月 4日 (金)

スイス時計産業バブルを考える

今まで何度も書いてきたようなことであるが、某店の社長のお話を聞いて、普段思っていることや時計好きの仲間から聞く情報などがラインとして頭の中でまとまってきた。将来の予言も含めて、備忘録的に書く。

「スイス時計産業バブル」が言われはじめて数年が経つ。何年か前、関税額が引き下げられて100万の時計でも数十万も値段が下がったことが信じられない。そして今、その引き下げ額を吸収したことは無論、さらに時計の定価は高くなった。まるでバブルである。

しかし、売れているという。私は「格差社会」などと世間もマスコミで騒がれているようなことを何も考えずに言うつもりは無いが、富裕層には相変わらず使い切れないほどのカネがあり、その使い道の先に機械式時計がブームとともに大きくクローズアップされているのは事実だろう。ちなみに「格差」は昭和30〜40年代の方が今の数倍大きかったというデータがあるらしい。

そして今やたらと高い油価などから、そのオイルマネーが中近東にうなっているとともに米国共和党にからむメジャーがその利権を良いことに利益をむさぼっているのは想像に難くない。さらに米国は、「アジアやヨーロッパで作った商品を消費する国」として、主に金融経済で富を得てきた。たしかに自国の第二次産業は誰が見ても斜陽で、またそれを政治的には関税や輸入のコントロールをして表面的に保護しているような政策を適当に打つが、消費者にとって魅力的なものしか売れないのは自明で、故に米国民もトヨタ車に乗りたがるのである。自国/欧州はすでに経済が発展し、これ以上の利益を望めないので米国の覇権を徐々に縮小し、第三国の発展を促してそこでまたマネーを得ようと画策している流れもあると聞く。シオニストやらネオコンやらの話は私には全く専門外だが。

時計の話から大きくそれたが、マネーはあるところにはある。そして特にバブルで得たカネは、こういった高額商品に流れがちである、と聞く。その矛先の大きな一つが高級機械式時計であるということだ。

今の世界経済について語るタマではないが、米国住宅バブルは崩壊寸前で、米ドルは中国が米国債を買い支えているから水準を保っている状態である。中国の発展はこれからの世界を想像するのに最も重要なことであるが、この中国の覇権がどんどん大きくなっている今、「米国債はいらねーよ」と言った瞬間に世界の基軸通貨の役割を果たしていた米ドルはその地位を追われ、ユーロ、円(というよりアジア版IMFによる基軸通貨?)が世界の基軸通貨となるであろう。

ロシアもKGB時代にドレスデンに勤務していた(すこしでも時計Blogネタっぽくわざわざこんな話をしているわけで〜当時はGUBなんか腕にしていたのではないか?)というプーチン首相のエネルギー囲い込み政策が功を奏し、大きな影響力を獲得している。そして米ドルの下落に始まる世界不況が起きるとある割合の経済学者は言っているようであるが、私もそうなる気がしている。

そこで、世界不況が起きたときに、どうなるか?もはや高級機械式時計を買っている場合ではなくなるのではないか(シンガポールや産油国は別であろうが)。そして特に日本はスイス高級メゾンから見て、近年とみに市場として相手にされなくなっており、米国/欧州/中近東がメインと聞く。ここで世界不況が起きたらまず最大の顧客である米国市場はダメであろう。ここはリシュモンなどのIR資料を見ても、アジア市場特に日本は軽視されてきているのが分かる。アジアよりも米国や欧州のほうが成長率が高く、日本だけ横ばいのような状況だからだ。

さて、スイス時計産業はここ数年どうなってきたか?世界で余ったマネーを消費するべくラグジュアリー化、差別化、大型化、そして高価格化、高級化(何を持って高級というのだろう!)etc.という路線を突き進んできた。

ここでキーパーソンはやはりZenith率いるナタフ氏である。
彼のやり方は単純明快だ。マニュファクチュールという催眠効果/陶酔効果のある呪文を使い、デザインを派手にして高級(そう)にシフト、価格帯を2〜3倍にするとともに派手な広告/イメージ戦略、派手なパーティー、自ら(ルックスや育ちがいいのをよく知っているのねこの人)広告塔となってメディア露出、と巨大コングロマリット傘下に入った大手メゾンが今やっていることを、全てスケールを大きくして先取りしてやったのがナタフ氏であると思うわけだ。

かくして現行Zenithは、ナタフショック前のラインナップから見てもまるで同じメゾンとは思えないものとなった。ナタフ氏は「エルプリの価値を引き上げる。そのために外装やデザインも高級にシフトする」とか言っていた記憶があるが、例えば今のデファイのケースやブレスの磨き・面出しなど、マンフレディーニ氏時代よりも酷いものとなっているのが実態である。エクストリームのダイヤルにある扇風機パーツ、あれは田宮のプラモデルのほうがよっぽど精巧だろう、と思えるほどあり得ないクオリティだ。1000超えるトゥールビヨンにも使われていて全く正気の沙汰ではない。はっきり言うとこのクオリティにこの値段、全く異常だ。

しかし派手な外観と存在感から、いかにもバブルマネーを吸収してしまいそうではないか。同じことがロジェにも言える。今やフランクを抜いて時計屋に戻ってくる割合ナンバーワンとも聞く。同社を代表するシンパシーのライン。出た頃は複雑な形のケースに、同じ形のダイヤル・風防をはめ込んだ手間のかかるものであった。今のシンパシーはなんと丸い風防である。手抜きと取られても仕方あるまい。時計としてどちらが魅力的かは一目瞭然であろう。

極端な例を出したが、良心的か儲け第一主義を出しすぎているかはメゾンによって差はあれど、大くくりにすれば同じベクトルを向いていると言えてしまうのが現在のスイスメゾンであろう。

そして聞いて衝撃的だったのは、詳しくはここには書けないが、ダイヤルに「SWISS MADE」と表記する条件を、現在でもユルいのに(魚沼で精米すれば全部魚沼産になっちゃうコシヒカリと同じだなこりゃ)、さらにユルくするという。その目的は何か?もちろん、ここ数年非常に台頭してきた大陸性ムーブメントを使うためである。Totally Swizzerlandはもはや幻想で、あの時計を出したフランクは皮肉たっぷりだけど良心的かもしれないとすら思ったわけである。

さらに、さらにである。スイスの技術者の大量流出などにより、大陸性のムーブメントのクオリティは恐ろしく上がっておりすでにミニッツリピーターまでラインアップされているわけだ。質が上がって原価が安いとなればスイス製ムーブメントを使う意味は無い。しかし文字盤の「SWISS MADE」は無くてはならない。さていったいどういうことになるのであろうか?

69年に始まったクォーツショックと同じことが、また東からの波で起こるのだ。
そして結局自分の手で自分の首を絞めてしまったことに遅ればせながら気がついたスイスメゾンは、悪どいことをやってきた方から自滅して行き、淘汰されるのだ。歴史は繰り返されるのである。

注)ここで展開した持論は、全てレベルソ好きが好き勝手を書いただけであり、スイス時計を愛する一時計ファンとして警鐘を鳴らしたいだけであります。

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» 一時的なバブルなのか新秩序への移行なのか [ドイツ時計バカ一代ブログ]
一応、経済活動(の一部)を観察することを生業としている人間として、レベルソ好きさんのトキノタワゴトブログの「スイス時計産業バブルを考える」というエントリと広田さんのwebChronosの「雑感(ややシリアスに)」というエントリを受けて思うところを書いてみます。 これはとてもラフなアイディアに過ぎず試論とも呼べないようなもので、もっとまともに書けるようになればちゃんと書きたいとは思いますが、それでも今書くのは個人のブログだから好き勝手に書くぞ、ということで:) 今、新興国の経済成長とそれに伴う... [続きを読む]

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