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2006年8月29日 (火)

今年の潮流Part 1

デテント変形脱進器について。APとJLCというジュウ渓谷を代表する高度な技術力・旺盛な開発力を誇るメゾンから出てきたこれらは今年の大きなトピックであることは間違いない。
ロビンエスケープメントの問題の解決方法についてはクロノスの記事を読んで大まかには分かったつもりだが、このL型のレバーがテンワの振動により微妙に出し入れされて衝突を防ぐと言うのはやはり相当なパーツの工作精度と組み立て精度が要求されるであろう。実際に調整そのものも大変そうな気がするが、実現される精度は記事を読む限りやはり凄い。パピの凄さを感じる記事だ。

一方JLCの楕円アイソメータ脱進器は、どこから出てきた機構なのかはナゾであるが、機構としてはこのルビー円柱の側面でガンギの歯をストップさせている。このルビー円柱がシリンダー脱進器のように二百何十度も回転するわけでは無いのだが微妙に回転するということで、わずかではあるが理論上Frictional restが発生する。テンワは完全にデタッチされているのでシリンダーとは大いに異なるのであるが、APのロビン改よりもなんか時代に逆行しているような気がするのだ。

さて本来デテント脱進器(クロノメーター脱進器)を持つ時計は、ジンバルで常に水平を保たれているもので、これが辣腕時計師による調整がなされれば日差1秒以内なんてのは当たり前の世界である。凄いのは日差よりもisochronism調整によりぜんまいの巻き上げ具合によらない等時性が担保されていたことである。日差というのは、毎日同じ時間に時計を見るとたまたま合っているだけかもしれない訳で、全ての時間においてダーっと一定の進み遅れがキープされることこそが凄いのである。

さて腕時計は腕に巻かれているわけで、ジンバルによって水平が担保されうるはずが無く、あらゆる姿勢でこのデテントとして本来持ちうる精度をたたき出すとしたら凄いことだ。ただ等時性を出すためにはトルクを極力一定にしなければならないが、トルクの発生源が香箱である限り巻き止め機構をつけても本質的に均一なトルクになるわけも無く、ここはやはりFuseeを登場させると言うのが歴史的に正しいアプローチなのでは無いかと考える。もちろんルモントワールなどの方法はあるし、新型デテントと組み合わされば凄いものになるであろう。しかし個人的には、やはりデテントには鎖引きが良く似合うと思うのだ。
そんなわけで、究極の理想を言えば新型デテントには鎖引きを合体して欲しい。鎖引きの腕時計と言えばプール・ル・メリットなわけだがこれを考えても一体いくらになるのやら?
顔はスモセコのでかいローマ数字の英吉利干支でぜひ。針はペアシェイプに決まっている。金側あるいは銀側も良いのでは無いかと。さらにはデテントは音が大きいのも魅力の一つな訳で、ぜひ動作音にこだわった時計が出ないものか。

なお、私の1840年製スプリングデテント(ポケットクロノメーター)は、平置きと12時位置上(本来の懐中が吊るされている姿勢)では、信じられないほど精度が異なる。やはりデテントはマリクロなのだろう。

デテント以外にも、ユリス・ナルダンの160周年モデルも面白いが、実際に手に取ることができたブレゲのシリシオンについて少しだけ。
ダイヤルは変だが、機械は結構凄い。FP改であるが脱進器周りは要注目である。テンワは小さいのだが、例のブレゲ型にマスロットのある部分がへっこんでいて、さらにブラストと磨きの二段階仕上げがなされており、小さなミーンタイムスクリューが4つつく。しかも個人的に今激しく魅力を感じる四本アミダなのだ。このテンワはその小ささゆえ、よくこんなものを作ったな、と非常に高い工作精度を感じることが出来、小ささが逆に凄みと感じる面白いモノだ。
シリコンヒゲがまた凄い。ヒゲの巻上げ(性格には巻き上げていないのであるが・・・フォトレジストですな)間隔が、見慣れた一般的なヒゲの間隔と異なり極端に、もう全く見たことに無いくらい狭いのだ。そのぎゅっと凝縮した感じとものすごく良く出来た小さなテンワ、これらが組み合わされた結果、今まで見たことも無いような緻密な脱進器がそこに出現。ローターは邪魔だがこの脱進器は一見の価値がある。かなりのインパクトが私にはあった。

今だから出来る、機械式時計産業にとって全くの新技術を古の機械式時計技術に投入するという、面白くもバカバカしい手法は今後一体どこに向かうのだろうか?ここ数年はこの潮流に注目である。

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2006年8月16日 (水)

私の一年

夏である。この時期、やたらとブレス時計が欲しくなる。ブレスモデルはあまり持っていないのでどうしてもワンパターンというかツーパターンかスリーパターンくらいしかコーディネートの幅が無い。ここらで一丁ブレスモデルを、いや持っていないしゴムストラップの時計も欲しい。そうして悩んでいるうちに夏の時計フェアに突入していく(今はまさにここ)。各種新製品はもう分かっちゃいるが、なぜか何回も百貨店に足を運んでしまう。新製品はここ数年本当に軒並み高い。しかし狙った獲物があると見境無くなってしまう。注意しなければ。そんなこんなで夏は危ない。

秋になる。ようやく革ストラップの時計が出来る季節になると、茶革バンドの金側時計が欲しくなったりする。またムーンフェイズが欲しくなるのはこの季節が多い。時計を買わずにストラップだけ変えたりしてこの時期はなんとか乗り切る。ストラップを二,三本買わないと、多分時計を買ってしまう。尾錠なんかも純正尾錠をebayであさったりしてとにかく気を紛らわす。そうしないと絶対に危ない。夏時計をOHに出したりすると、戻ってくるまでの間、なぜか寂しくて安いモデルを衝動買いしたくなる。でも絶対に買ってはいけないのだ。結局そういう時計は、OHから本命が戻ってきたりすると使わなくなってしまうからだ。買う時計は本命のみ!と自ら言い聞かせ続ける。

冬はプレゼントシーズンで最も危ない。買う気も無いのに時計が欲しくなってしまう。この季節は中古品も高めの値段で推移しているので買っちゃダメだ。じゃあオークションで?ebayの落札相場も比較的高くなる。そう、この時期に買ってはいけないのだ。じゃあどうするか?時計本を数冊Amazonで買って翻訳に精を出すもよし。もう少し文化的にいきたいものだ。懐中をいじくりながら時計本をじっくりと読むなんて、なんとも良いでは無いか!知識が増えればその懐中時計への愛着も増えるはず。
プレゼントシーズンをなんとか乗り切って2月を過ぎればかなり楽になる。BASEL/SIHHの新製品を見ずにして時計が買えるか!という状態になるからだ。2月中ころから各種forumでは新製品の話題でもちきりになり、この躁状態は4月中旬まで続く。買わずにしてワクワクできるこの時期は、最も精神衛生上楽なシーズンでは無いかと思う。唯一の落とし穴は二月末に毎年永久カレンダーが欲しくなってしまうくらいか。ここは一瞬を我慢すれば良いのでまだ楽だ。

そして春である。BASEL/SIHHの新製品にも見事に裏切られ、また4月から職場環境が変わったりしてストレスがたまってくると、この時期が意外に危ない。新製品も良いものが無く、狙っていたブツが定まっているこういう時期に、ストレス解消も兼ねてエイヤッと逝ってしまう可能性も少なくない。ここは連休に遊びを入れたりして気を紛らわそう。そもそも時計趣味なんて体を動かすことも無く、クリエイティヴでもない。せっかく春だしもっと建設的なことに時間を使ったほうが良い。

書いていて情けなくなるほど、なんともくだらないとしか言いようが無い一年を送っている私であった。

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2006年8月 7日 (月)

とりあえずスクアドラをいじってきましたが

デカい。とにかくデカい。
ここ数年のJLCの変化の潮流はこのスクアドラをもって完結と言うか新たなるフェーズに入ったと言うか、そんな印象を受けた。
まずケース。JLCがクラシックラインと呼ぶ従来のレディ、クラシック、GT、XGTの各サイズのケース断面は楕円形である。スクアドラはこれがはっきりと八角形になっており、エッジを効かせたデザインとなった。このエッジというかシャープなラインはラグまで一直線に入っており、あのやわらかい形状が無くなったこと、正方形のケースとあいまってレベルソのイメージはかなり薄らいでいると感じた。印象として近いのはZenithのポートロワイヤルである。あの摩天楼をイメージしたとか言うやつだ。デカさも近いと思うし、要はなんかイロモノチックなのだ。
ただし、ケースの仕上げそのものはJLCらしく、かっちりと出来ている。この出来に文句付ける人は少ないであろう。ケースバック(クレードル)もJLCクオリティ。竜頭はケースの断面形状に合わせたであろう新しい八角形のもので、これはケースの意匠と良く合っており悪くない。ラグの形状は、XGTでもかたくなに下げなかったがスクアドラはついに手首側に垂れ下がった形状を採用した。クラシックラインのようにまっすぐな形状を採用すると、もはやデカすぎて装着製に破綻が生じるためであろう。結果として手首への座りはXGTレベルソよりも少しマシなものになっている。
文字盤の作りそのものはJLCの平均的レベルであるが、タコ印刷のビビリ(クロノス9月号の表紙を良くご覧あれ)などクオリティは下がっているかも。あくまで写真の個体の問題かもしれないが。デザインは好き嫌いあると思う。針はJLCらしく平面的。以前から思っていたことだが、JLCの時計の針は総じて、ケースの出来などに比べて悪いと思う。PGサンムーンやWGデユエットなどの自前の青針は素晴らしいが。
いじったのはクロノで、これはシースルーバックで例のFP改の機械が見える。97*系の機械も含め、最近のJLCの機械の仕上げは明らかにワンランク落ちた。残念だがこれは断言できる。地板のブラスト面(磨いていない面)は増えているし、新規開発した機械の地板やブリッジの形状もなにか魅力を感じない。設計の合理性は分かるが、引き換えに機械式ムーブメントの本質的な魅力に欠けてきている、と感じるのだ。
フォールディングバックルは新しい両開きのモノがついており、繊細な印象からどちらかというと無骨に近い印象になった。これもなにかZenith的な感じがする。
スクアドラのブレスモデルもあったのだが、この重量感は尋常ではなく、またブレスそのものの芸風も変わった。ものすごく分厚く、デザインされており、可動範囲も狭い。そしてエッジを効かせたデザインはROを思い出させるが、あれよりも断然分厚いのだ。駒そのものは非常に良く加工された形状をしており、製造手間もかかっている。しかしとにかくあまりの変化に旧来のモデルのユーザである私はついていけないのである。
それ以外のモデルにも一応言及しておくと、グランドレヴェイユやマスターカレンダーはでかくて分厚いし、今年はついにジオグラまでデカくなってしまった。かろうじて生き延びているのはRDMとMUTだけだが、ディスコンも時間の問題だろう。唯一良いと思ったのはレベルソデュエットデュオ。間借デザインは女性用にのみ、私は認める。
グランドサンムーンについてはSSはバカ売れするだろうが、機械の星座彫りでなんかこれもイロモノ的になってしまった印象。
そんなことも含めて私の好みの全て正反対に進んでいる今のJLCのプロダクト、今年もさらに失望感を深めたのだった。
希望の光はスーパーコンプリレベルソに積まれた楕円アイソメーター脱進器、あれがこなれて超高精度手巻きモデルが出現する可能性くらいか。

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